朝鮮戦争休戦協定の白紙化や、板門店の南北軍事ホットラインの遮断など、挑発を続ける北朝鮮・金正恩政権の狙いは何か? といった分析報道が連日、新聞紙上に掲載され、テレビで放送されている。

 しかし、それらはすべて“推測”に過ぎない。独裁政権の本当の考えは独裁者本人か、日常的に独裁者と接している家族・側近にしか分からないからだ。米韓の情報機関にも分からなければ、朝鮮問題の専門家にも分からない。もちろんマスメディアにも分かるはずはない。

 だが、入手できる情報をもとに、それなりに根拠のある推測はできる。いわゆるインテリジェンス(情報収集・分析)とは、無数に考えられる仮説の中から、より蓋然性の高い仮説を選択していく作業にほかならない。

 そこで「北朝鮮はなぜ挑発を続けるのか?」だが、その前に、さらに基本的なテーマである「北朝鮮はなぜ核ミサイル開発をするのか?」を考えてみたい。

アメリカと平和条約で狙う金正恩体制の維持

 まず、1つの前提をもとに“金正恩政権の意図”を検討してみる。その前提とは、「金正恩政権が最優先するのは政権の維持であり、そのために合理的な行動を取る」ということである。

 あれだけの個人独裁を親子3代にわたって世襲してきた実績から考えると、この前提は妥当なものだ。個人独裁であるから、独裁者の考え一つで合理的でない行動を取る可能性はあるが、独裁体制維持という目的のために合理的でない行動を取っていれば、すでに政権が崩壊していた可能性が高いことを考慮すると、やはりそれなりに合理的な政策、というよりむしろ“極めて合理的”な政策をこれまで選択してきたと見るべきである。

 確かに北朝鮮の対外政策は、普通の国家の安全保障の基準からすれば、軍事的緊張を不要に高める非合理的なものになるが、独裁維持という目的からすれば、それなりに理に適っている。今後のことは分からないが、厳しい国内外の環境の中でこれまでサバイバルしてきた独裁体制は、これからもそれなりに独裁体制維持のため、合理的に行動していく可能性が極めて高い。

 では、その合理的な政策とは何か? これには様々な考え方があるが、力(パワー)を重視するリアリズム的な視点からすると、その基本路線は国内的には「統制・監視による恐怖支配」を、対外的には「軍事的に米韓軍に負けないこと」を最優先するということになる。

 本稿では今回、後者である対外政策を考察するが、ここでまず押さえておきたいことは、「北朝鮮の体制は常に米韓側と潜在的敵対関係にある」という現実だ。

 南北はいまだ国際法的には戦争状態であり、北朝鮮軍と米韓軍は休戦ラインを挟んで対峙している。現在の休戦状態が続くうちは北朝鮮の体制も対外的な安全保障が保たれるが、休戦が未来永劫に続くという保証はない(冒頭に述べたように、北朝鮮側が今回、休戦協定白紙化を宣言しているが、実際には戦闘は再開していない)。