本シリーズで筆者が担当した2回の小論(「『知識』の果実を手に入れる難しさ」および「『ガラパゴス化』が絶滅の道をたどる理由~『必要は発明の母』を正しく理解する」)では、知識の利用過程としてのイノベーションに焦点を当てたが、今回は知識の創造過程の特徴、特にプライオリティーを巡る競争について述べよう。
研究開発においては、生産、販売などと比べても、先行者となることがより重要である。研究開発は事業の一番川上であり、研究開発で先行することが、事業化における先行者の優位性の源泉となる。
加えて、学術論文と同様に「世界初」でなければ発明への特許権を獲得することができない。企業が特許権を得ることはイノベーションの成功を保証するものではないが、その重要な条件の1つである。
一番乗り競争では1番手以外の利益がゼロ
特許権は排他権であるので、仮に同時期に複数の企業が同じ発明をしていた場合、先に特許権を獲得した企業のみがその技術を独占して利用することができる。
すなわち、一番乗りになった場合とそうでない場合を比べると、発明からの利得の構造は以下のようになる。
・発明の一番乗り=発明の独占実施の利益を得る
・発明の2番手以降=自分の発明も実施できなくなるので、発明の利益はゼロ
このように一番乗り競争の勝者がすべてを獲得するので、2番手以降は利得がゼロとなる。したがって、研究開発の競争ではスピードが非常に重要であり、1番になることの意味が非常に大きい。
特許権の取得ができたとして、どれだけ広い権利を獲得できるかどうかにおいても、研究開発のスピードが重要である。
競争企業が注目していないシーズをベースにして、効果的に研究開発を行う企業は、より質の高い発明を行い、その結果、幅の広い権利を獲得することができる。他方で、「二番煎じ」的な研究では質の高い発明は期待できず、特許権は獲得できてもその範囲は狭くなり、競争優位の源泉にはならない。
スピードが特許の価値を高める
以上のような競争メカニズムが研究開発で現実に重要であることは、以下のような2つの統計事実と整合する。