東京・青山の伊藤忠本社ビル

 1962年に名古屋大学法学部を卒業して伊藤忠に入社した丹羽氏は、主に食糧畑を歩み、68年から77年は米国に駐在。98年に社長に就任後は中国企業への投融資に取り組んだ。会長になった2004年にはアサヒビールとともに中国食品大手と清涼飲料の合弁会社を設立。物流会社にも出資したほか、ファミリーマートと組んでコンビニ事業にも進出。中国政府や経済界との人脈は豊富だ。

 旧来型の財界活動より公職活動を重視。伊藤忠会長となってからは経団連の副会長を務める代わりに経済財政諮問会議民間議員、日本郵政社外取締役、地方分権改革推進委員会委員長などを歴任した。いわば「非主流派の財界人」(経済産業省幹部)だ。

賛否両論の経済界

 “丹羽大使”について経済界の見方は割れている。

「21世紀は中国の世紀に」、米世論調査で46%

今や中国は、日本にとっても欧米各国にとっても重要な貿易相手国だ〔AFPBB News

 少子高齢化で国内市場が先細り傾向にある日本にとって、中国市場は外需獲得の重要な柱だ。いまや日本の経済成長や消費拡大は「中国頼み」で、日本経団連は今年から年に2回、中国に視察団を送ることを決め、中国とのパイプ作りを最重要視している。

 日本の経済界はこれまで、米国が専従の商務官を設置するなど欧米各国がなりふり構わず官民合同で対中ビジネスに注力するのを歯がみしながら見てきた。最近は政財官が合同で新幹線や原子力などのインフラを海外セールスしようという機運が出てきており、「外交儀礼ばかり重んじて何もしてくれない大使よりずっとマシだ」(日本経団連中堅幹部)という歓迎ムードはある。

 一方、頭を抱えているのは伊藤忠以外の大手商社だ。

 貿易商社は日本独自の産業形態で、高度経済成長の時代から日本経済の先兵となって海外に拠点を築いてきた。進出国の機密情報にどれだけ通じているかが自社の商権獲得の鍵になるのは今も昔も変わらない。まして主要国の大使ともなれば入ってくる情報量は一企業とは比較にならぬほど膨大で、情報の精度も段違いだ。