次期駐中大使に丹羽宇一郎・伊藤忠商事相談役を充てる人事が浮上し、波紋を呼んでいる。小国ならいざ知らず、近い将来は世界の要になると自他ともに認める大国への民間人起用は「異例中の異例」(米倉弘昌・日本経団連会長)だ。舞台裏を追った。
“丹羽大使”が急浮上
「一体どうなっているのか、教えてほしいよ。いま現在、私のところには人事権者から何のコンタクトもない」
2010年6月7日夜、自宅前で報道陣に囲まれた丹羽氏は憤りを隠さなかった。その前日6日付の日本経済新聞朝刊1面で大きく「駐中国大使に丹羽氏」と報じられたが、「受けるも何も。まだ正式な要請も来てないんだから」。
だが、複数の政府関係者は丹羽氏起用を調整中であることを認めている。中国政府にも非公式に打診済みで、早ければ15日にも閣議決定するという。実現すれば1972年の国交回復以来、初めての民間出身の中国大使である。
在任期間が2006年3月で満4年を超えた宮本雄二・現大使の後任選びは、鳩山政権時代から岡田克也外相を中心に進められてきた。鳩山首相の「中国重視」を踏まえつつ、外務省以外からの起用が原則で、民主党が標榜する政治主導を具現化する狙いがあった。
伊藤忠は日中国交正常化の前年、1971年12月に中国室を設置。大手商社として初めて中国との貿易を再開した。翌72年3月には当時の越後正一社長を団長とする訪中視察団を派遣し、中国政府から友好商社に指定された。
「井戸を掘った人」を重んじる中国だけに、伊藤忠の2010年3月期の対中投資残高は1200億円。三菱商事の900億円、住友商事の800億円を凌駕し6大商社のトップを走る。駐在員数も約180人と同業他社に抜きんでている。