この背景には、2008年の大統領選に比べてソーシャルメディア利用者の絶対数が増加していることもある。
例えばフェイスブックであれば、2008年の大統領選時のユーザー数は全米で約4000万人であったが、現在は1億6000万人にまで増加している。理屈上、ほとんどの有権者にリーチできる規模にまでその利用者が増加していた点は、「ソーシャル選挙」のお膳立てとして重要だ。
ソーシャルメディア上のこれらの数字的成果や、ソーシャルメディアサイドが行った2012年米国大統領選へ向けての機能的協力※も併せみれば、史上最高レベルの「ソーシャル選挙」であったことは認めても良いであろう。
※機能的協力
フェイスブックはCNNと提携し、ユーザーが投票に行く意思や、特定の候補者や政策への支持を表明できるアプリ「I’m Voting」を提供。また、「U.S.Politics(米国の政治)」をはじめとする数々のフェイスブックページに投票所の位置表示機能を設置して大量のユーザー(有権者)をそこへ誘導したり、フェイスブックユーザーがどこで投票しているかを表示するリアルタイム地図を提供した。
オバマ、ロムニー両陣営におけるソーシャルメディアの位置付け
とはいえソーシャルメディアばかりがこの選挙戦を支配していたわけではない。
例えば、オバマ氏とロムニー氏両陣営の2012年1~8月の広告費出費実績(参照元:Federal Election Commission)を見ると、オバマ陣営が出費した全選挙活動費3億500万ドルのうち広告関連費用が約7割の2億1400万ドルであった。
ソーシャルメディアをはじめとしたオンライン広告費は3700万ドルで広告費用の17.5%相当になり、多くの出費は放送メディアに配分されている。それでも、2008年の大統領選でオバマ氏が費やしたオンライン広告費は総額1600万ドルと言われているので、大幅に増加はしている。
一方、ロムニー陣営の広告関連費用は全選挙活動費の約3割の6300万ドル、さらにオンライン広告費は6%相当の422万ドルにとどまる。
勝利を収めたオバマ陣営の方が相対的にソーシャルメディア等のオンライン広告を重視してはいるが、史上最高レベルの「ソーシャル選挙」の印象ほどには全体に対して大きなウェイトを占めているわけではない。
有権者の投票行動に与える影響要素やその相関性は、実に多面的で複雑だ。表面的な「ソーシャル選挙」の印象に、過度に振り回されない方がよいことも確かだ。中には「フェイスブックが大統領選に与える影響はまだ小さい("Premature Facebook Election Hype, A Respnse To The Atlantic")」と論じる記事の類いも散見される。
それでも、この大統領選においてソーシャルメディアが投票行動プロセスに与えた影響は小さくないと考えるべきであろう。
実際、ソーシャルメディアは投票行動に与える影響の一要素に過ぎない。しかしながら、今後その一要素の重要性が増していく過程にあることは間違いない。
政治広告全体においても、現時点では依然としてテレビが中心メディアとなっているが、若年層を中心としたテレビ離れの加速(そしてそれと呼応するようなソーシャルメディア利用時間の増加)や、政治活用に適したソーシャルメディアのバリエーション増加等の要因がソーシャルメディアへの予算シフトを後押していくはずだ。
