アップルとサムスン電子のスマホを巡る特許訴訟を調べていたら、偶然、爆笑ものの記事を発見した。それは、今や経営者や起業家にとってバイブルともなった『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)の著者であるクレイトン・クリステンセンの失言である。

 実は私は、アップルとサムスンの特許訴訟にさほど関心がなかった。なぜなら、「サムスンがパクッたに決まってるじゃないか」と思っていたからだ。私は、両社のスマホの中味や訴訟の詳しい事情を知っているわけではない。しかし、DRAM、液晶、太陽電池など、これまでのサムスンのやり方を考えれば、私には「一目瞭然」としか思えなかった。

 (この原稿を書き終えた8月31日に日本では東京地裁により「サムスンは特許侵害をしていない」という判決が下されたが、サムスンに対する私の疑惑はまったく変わらない。裁判結果が常に正しいとは限らない)

 世界一の投資家であるウォーレン・バフェットの言葉を借りるなら、「会いに来た人の体重が150キロから180キロの間だったら、ひと目見ただけでその人が太っていることが分かります」(『ウォーレン・バフェット 成功の名語録』、桑原晃弥著、PHPビジネス新書)ということだ。サムスンは明らかに“180キロ”に見えた。

 ちなみに上記バフェットの言葉の意味は、投資するか否かの決断の際、「ノー」なら相手が説明途中でも話をさえぎって言いわたし、「イエス」の判断も5分あれば十分であり、無駄な分析に時間を浪費するなという教えである。

 本稿では、まず、クリステンセンの失言の記事を紹介する。そして、アップルとサムスンの訴訟問題の行方に戦々恐々としている企業はどこかを考察する。

経営学の面白さを初めて教えてくれた本

 「あなたの人生に最もインパクトを与えた本は何ですか?」

 このように聞かれたら、私は即座に前掲の『イノベーションのジレンマ』を挙げる。クリステンセンがいかなる失言をしようとも、この答えは変わらない。

イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン著、翔泳社)

 その理由は以下の通りである。

 日本半導体の世界シェアがピークだった頃に日立製作所に入社した私は、半導体の凋落とリンクするような技術者人生を歩み、日本がDRAMから撤退すると同時期に「お前も辞めろ」と早期退職勧告を受けた。その結果、2002年10月日立を“自己都合退職”し、16年半の半導体技術者にピリオドを打つことになった(その経緯は本連載の第1回目、「日本『半導体』の凋落とともに歩んだ技術者人生」に詳述した)。

 23通もの履歴書を送り、苦労して転職した半導体エネルギー研究所では、社長とウマが合わず、入社後わずか3カ月で「明日から来ないでくれ」と言われて、2003年3月に退職した(転職の経緯は「大手メーカーの特許戦略はぬる過ぎる」に記載した)。