アメリカの国際問題に関する雑誌「Foreign Policy」の8月20日付ウェブ版に、アメリカ海軍大学準教授のホルムズ博士(元アメリカ海軍水上艦艇勤務士官で、退役後学者に転身。タフツ大学で国際関係論を研究しPh.D.取得)の論文が掲載された。タイトルは「日中海戦・2012年:心配無用、おそらく勃発はしない。しかし、もし生じたらどちらが勝つだろうか?」である。

 (隔月発行雑誌「Foreign Policy」はかつては季刊の学術誌であったが、2008年以降はワシントンポストの傘下に入り、学術論文ではなく国際経済、国際政治や思想問題と幅広い記事を掲載している)

 ホルムズ博士によると、中国海軍と海上自衛隊を比較すると、中国海軍の利点は(1)軍艦の数、(2)各種長距離ミサイル戦力の助けを借りることができる、という点である。そして海上自衛隊の利点は(1)軍艦の質、(2)自衛隊員の質、(3)中国大陸を弓なりに押さえ込む日本列島の地形、である。

 そして、2012年現在、中国海軍艦隊と海上自衛隊艦隊が海上決戦した場合、中国海軍にはとても勝ち目はない、とホルムズ博士は結論する。その理由は以下の通りである。

(1)中国海軍の軍艦の数量的優越は自衛隊の軍艦の質とそれを操艦する自衛隊員の練度によって相殺されてしまう。

(2)陸上自衛隊88式地対艦誘導弾(地上から海上の軍艦を攻撃するミサイル)と部隊を前もって南西諸島・先島諸島に配備しておけば、弓なりの“不沈空母”と化した日本に中国海軍が接近することは困難となり、中国軍の各種長距離ミサイルにより海自基地や海自軍艦を攻撃できるという強みも帳消しになる。

(3)中国海軍と海上自衛隊が正面切って戦闘するような事態に立ち至った場合には、間違いなくアメリカ軍が日本側に与する(ただし、このシミュレーションにアメリカ軍は直接参戦しない)。

ホルムズ博士が掲げる日本勝利の「前提条件」とは

 この論文は、ホルムズ博士自身が注意を促しているように、日本と中国による戦争はもちろん、中国海軍と海上自衛隊による軍事衝突(海戦)といった想定は現実には勃発しそうにないものの、あえて中国艦隊と日本艦隊が直接戦火を交えるという事態を想定した分析である。