「EV、EVって騒ぐけど、電気自動車のどこが破壊的技術なのか?」
ある方から、このような問いかけを受けた。確かに、現在クルマ産業界が開発しているEVは、ガソリンエンジン車の延長線上にある。CO2は出さないかもしれないが、移動手段および運搬手段としては動力装置が換わるだけであり、何ら破壊的ではない(ただし、エンジン部品や材料を供給している下請けメーカーにとっては、EV普及によりビジネスがなくなるという意味では破壊的である)。
現状では、リチウムイオン電池が高く、重く、1回の充電で走れる距離が十分でないため、ガソリンエンジン車並みの性能も価格も実現できそうもない。クルマを利用する側の立場からすると、環境に優しいこと以外は、良いことは何もないように思える。
果たしてそうだろうか? 本稿では、EVが破壊的イノベーションを起こす可能性について考察する。
「ローエンド型」「新市場型」という2種類の破壊的イノベーション
まず、破壊的イノベーションには2つのタイプがあることから話を始めたい。
ハーバード大学ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンは、『イノベーションのジレンマ』(2001年、翔泳社)にて、ハードディスクドライブ(HDD)の歴史などを詳細に調べることにより、イノベーションには「持続的イノベーション」および「破壊的イノベーション」の2種類が存在することを示した。
続いてクリステンセンは、『イノベーションへの解』(2003年、翔泳社)および『明日は誰のものか イノベーションの最終解』(2005年、ランダムハウス講談社)で、「破壊的イノベーション」にはさらに2つのタイプが存在することを示している(図1)。
まず、既存市場に、より高性能・高品質な製品を投入する「持続的イノベーション」があるとする。伝統的な大企業がこの戦略を採用し、高いシェアを獲得する。