自動車メディアにおける「定説」、あるいは何かというと使われる「枕詞」の1つに「FR(フロントにエンジンを積み、後輪を駆動するレイアウト)のクルマはスポーティ」というフレーズがある。もう少し範囲を広げて「後輪を駆動するクルマはスポーティ」とする場合も少なくない。逆に言えば「前輪(あるいは全輪)を駆動するレイアウトは『スポーティ』ではない」ということになるわけだが。

 どうやらこうした定説に与する輩たちにとっては、「旋回中にアクセルペダルを踏みつけるとリアタイヤが滑る」と「スポーティ」であるらしい。

 先日もこのコラムで書き記したように、自動車が「欲望を刺激する工業製品」となった、その本質の中には「ヒトが自ら操る」面白さが必ずあり、したがって「ドライビングというスポーツ」を掘り下げて研鑽を積めば、「どんなクルマでも『操ることはスポーツ』だ」と実感できるようになる。

 もちろんそれぞれのクルマを「意のままに操る」、とりわけタイヤが路面と触れ合って力を生み出していることと、それが作り出すクルマの動きを感じ取り、組み立ててゆくことがその基本中の基本なのであって、それが「やりやすい/やりにくい」「楽しめる/つまらない」など、クルマによって資質の差はある。言うまでもなくその「資質の差」は決して小さなものではない。

「後輪駆動だからスポーティ」とは言えない

 旋回運動しているクルマを操る中でアクセルペダルを踏むとリアタイヤが滑るかどうか、もう少し正確に表現すると、旋回する運動が駆動力を加えることで強まるどうかが、「ドライビングというスポーツ」の楽しさを左右するものかどうか。それは、ドライバーが「クルマが向きを変えてゆく運動」を感じ取る肉体のセンサーを磨き、そこに特化してクルマの動きを生み出し、対処することができるかどうかにかかっている。

 そしてもう1つ、走る舞台によっても車両の運動に現れる効果は大きく変化する。「後輪を駆動するクルマ」で「加速しつつも向きを変えてゆける面白さ」が前面に現れるのは、舗装された道路で、しかも濡れたりしていない状況に限られる。

 しばらく前にこのコラムで紹介した「ドライビングというスポーツを磨く最良の舞台」である氷の上では、後輪駆動のクルマは操るのが非常に難しく、滑る中で「もがく」だけのものになりがちだ。乾燥良路から氷雪路まで、どんな状況でも安心感高くドライビングに集中できる「全天候スポーツカー」を実現したいのであれば、「常にきちんと4輪に駆動力を伝えるメカニズム」以外の選択肢はない。

 言葉尻をつかまえるようだが、「後輪駆動がスポーティ」ということであれば、1950年代まではほとんど全てのクルマが後輪駆動だった。つまり、その時代は全てのクルマが「スポーティな走り」であったのか? もちろん今日でも「全てのクルマで『ドライビングというスポーツ』が味わえる」のではあるけれども。自動車という工業製品を企画する者とそれを実体化させる技術者は、常にこうした「根本原理」を考え、掘り下げ、議論することが欠かせない。

スポーツカーのあり方を見失ったポルシェ

 もちろん「実用品としてのクルマ」の方が考えるべきことは多いが、とりわけ「スポーツカー」というジャンルは、今日では定義の難しいものになっている。かつては「普通のクルマよりも速く走れる」というだけでよかった。しかし今日では「速さ」でスポーツカーを定義することはできない。