マクロ経済という観点から見ると、日本企業が海外で買収を進める環境は、過去のブーム時と比べてもより明白なものとなっている。例えば、縮小する国内市場へ長期的に依存することで企業にマイナス影響が及ぶことはますます明白になりつつある。

 また資産価格のピーク時に買収を行った過去のケースと異なり、日本企業は多くの業界で資産価格を押し下げている世界的な景気低迷のメリットを享受することができる。(対ドル為替レートで)過去30年最高、あるいはそれに近いレベルの円高が続いていることも大きな要因だ。

 さらに日本企業(金融関係を除く)の現金保有高は、2011年末時点で2.79兆米ドルに達している。これは、同年日本企業が海外企業の買収に費やした695億米ドルをはるかに超える額だ。このことを考えても、今後しばらくの間、アウトバウンドM&Aの波が続く可能性は高い。

 日本企業自身も、こういった要因が海外で買収を行うために好都合な環境を作り出していることを理解している。

 そして個々の企業が置かれている状況にかかわらず、海外でのM&Aを進めなければならないというプレッシャーを経営レベルで感じているようだ。過去1~2年の間、現在の経済・人口動態・規制環境への対応に向けて海外でM&Aを進めることの重要性をIRレポートで強調することが、日本企業にとって義務のようになっている。

 アウトバウンドM&Aを行わなければ、経営者が現在のビジネストレンドから取り残されてしまうと感じているかのような印象を受けるほどだ。過去数年に見られたアウトバウンドM&Aの急速な増加は、買収フィーバーのあらゆる特徴を備えていると考える関係者もいる。

戦略を柱に

 経営者の多くは、市場環境に左右されてM&Aにアプローチすることで、プロセス開始前から買収の成功をリスクをはらむと考えている。M&Aは、個々の企業レベルが持つ戦略がスタート地点となる。そして企業はこの戦略のみをプロセス全体をつうじた指針とすることが重要だ。