海に囲まれてきた日本には、海の幸が多くある。岩場でゆらりゆらりと揺れている海苔も、その1つだ。
現代人にとって海苔は、おにぎりやふりかけなどの食材として身近な存在。一方で、海苔には古くから「希少価値のある贈りもの」としての役割もあった。
今の時代も、海苔は師走の時期の贈りもの「お歳暮」の根強い定番商品だ。歴史をさかのぼると、上位の者に献上する品として常に名を連ねてきたのが海苔だった。
日本人と海苔の関わり合いの歴史を、前篇では「物を贈る」という観点から眺めてみることにしたい。後篇では、日本人が親しんできた海苔の、美味しさの理由について迫ってみることにしよう。
日本人は、贈りものに食べものを選ぶことがとりわけ多いと言われる。
民俗学者の柳田國男は『食物と心臓』という作のなかで、その理由を分析した。いわく、食料の贈りものとはそもそも神への供物なのであって、神と人びとが共に食べることに贈りものの意義があるという。
神に捧げるものが本来の贈りものであれば、当然ながら贈りものは高価なものになる。手に入れることが難しいものこそ贈りものとしてふさわしいという図式は、こうして出来上がったのかもしれない。
今なお日本人には師走のこの季節、食べものを贈る習慣がある。「お歳暮」だ。かつては「歳暮の礼」と言われ、新しい年に先祖の霊を迎えるため、本家や親元に供物を持っていく習わしを指していた。転じて今では、お世話になった人やお得意さまに食べものを贈る習慣になっている。
お歳暮としての食べものは、日持ちがして、軽く、誰もが美味しいと思うものがよい。さらに、ちょっとした高級感で感謝の気持ちを添えることもできる。そんな進物品の代表格として、人から人へと贈られてきたのが「海苔」だ。
平安時代は高級な献納品だった
日本人にとっての“伝統的な食”の多くは、それぞれの長い歴史があるとしても、大陸から伝わってきたものだ。だが、海苔はそれとは異なる。もともと日本列島の海岸沿いに生息し続けてきたのだから、海苔は純粋に日本産の食べものと言ってもよいだろう。日本人と海苔の関わりは深くて長いのだ。