コロッケはじゃがいもが先か、クリームが先か

謎に包まれた日本のコロッケのルーツ

2011.12.09(Fri)澁川 祐子

 コロッケ黎明期に、ベシャメルソースは一切出てこない。これはどうしたことなのか。巷で言われている「ベシャメルソースをじゃがいもで代用説」は、ウソではなかろうか。そんな疑念がふつふつと沸き起こってきた。

クリームコロッケは後から日本に登場した?

 疑いは、明治時代の婦人向け雑誌『女鑑』を見て、確信に変わった。

 1895(明治28)年の8月号には、「コロツケ」として、細かくした牛肉もしくは鳥肉とじゃがいもを混ぜたじゃがいもコロッケのレシピが紹介されている。その4カ月後の12月号には、「仏蘭西(フランス)コロツケ」として、芝海老(またはくるま海老)を使い、バター、小麦粉、牛乳で作ったソースと和えたコロッケの作り方が書かれている。

 ようやく、ベシャメルソースの登場である。注目すべきは、クリームコロッケのことをわざわざ「フランス風」だと断っている点。すでにこの当時、単にコロッケと言えば、じゃがいものコロッケのことを指していたのだ。

 『女鑑』にクリームコロッケの作り方が登場する前年、1894(明治27)年刊の『獨習西洋料理法』(バツクマスター、中村忠太夫、八巻文三郎著)には、「チツケンクロケツト」と「クロケツト」の2種が掲載されている。

  レシピを見ると、チツケンクロケツトはバター、小麦粉、卵というベシャメルソースに似たつなぎを使った鶏肉のコロッケだ。クロケツトは肉のみのメンチコロッケで、じゃがいものコロッケは登場しない。また、名前が「コロツケ」ではなく、フランス語の発音にならった「クロケツト」であることも目を引く。

 この頃から明治の終わりにかけ、コロッケの様々なバリエーションが紹介されるようになる。それに伴い、表記も「コロツケ」「クロケツト」「クロツケツツ」「コロッケー」と入り乱れていく。

 1907(明治40)年刊の『家庭應用洋食五百種』(赤堀峯吉ら著)には、コロッケ類の調理法として、オイスター(牡蠣とじゃがいも)、ミンチ(挽き肉とじゃがいも)、ヴィール(仔牛)、ビーフ(挽き肉のみ)、ハム(ベシャメルソースを使用)、チッキン(じゃがいもと鶏肉、ベシャメルソース)の6種類。現在よりも、昔の方がバラエティに富んでいたんじゃないかと思うほどだ。

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