ユーロ圏GDP、前期比0.2%減で初のマイナス成長

0.75%利下げを決断したトリシェECB総裁〔AFPBB News〕

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 トリシェECB(欧州中央銀行)総裁は4日の会見で、次回1月理事会での政策決定について「何も言わない」「事前にコミットしない」と述べ、追加利下げは示唆しなかった。ECB理事会メンバーの一部からは会合前、利下げを急ピッチで進めすぎて、米FRB(連邦準備理事会)のように利下げ余地がなくなることを警戒する声も聞かれていた。全会一致での今回の0.75%利下げ決定は、議論の末の妥協の産物であろうし、利下げ幅を過去の最大幅である0.5%ではなく0.75%に拡大するという結論になったので、トリシェ総裁が追加利下げを示唆してこなかったことには、あまり意外感がない。総裁は会見で、「われわれは非常に低すぎる名目金利の罠にはまってしまうことを警戒しなければならない」とも述べていた。

 また、ルクセンブルク中銀メルシュ総裁は4日の地元紙インタビューで「今回は大きなステップだった。当面は停止となるだろう」「今後は今回ほどの大幅利下げはなく、通常の0.25%の変動幅の領域に戻るだろう」と述べている。1月理事会ではここまでの計1.75%という大幅な利下げの効果を見極めるためにいったん様子見姿勢に転じるべきだという意見が、ECB理事会内で少なくないことをうかがわせる。

 だが、市場では、ECBの利下げ姿勢が英国やスイス、スウェーデンなど周辺諸国に比べて出遅れていると批判する向きが少なくない。実際、ECBの場合、原油高と期待インフレ急上昇に惑わされて、7月に0.25%利上げという「道草」(厳しく言えば、明らかな政策ミス)をしてしまっている。PMI(購買担当者指数)の製造業、サービス部門双方の底割れ状況からみて、本来はもっと大胆に利下げすべき局面にあると言えるだろう。ECB自身、今回公表した12月ECBスタッフ予測で、2009年のユーロ圏成長率を9月時点の+0.6~+1.8%(中央値+1.2%)から、今回は▲1.0~±0.0%(中央値▲0.5%)へと大幅に引き下げている。また、トリシェ総裁は会見で、金融市場混乱の影響に言及しつつ、「世界およびユーロ圏の需要はさらに長い期間にわたり押し下げられることになるだろう」と述べていた。

 インフレ目標採用国であるため機動的な動きが取りにくかったはずのBOE(イングランド銀行)に、ECBは先を越されてしまい、11月時点で政策金利水準が逆転。英国の方がユーロ圏よりも低くなった。そして今回12月の政策決定で、英欧の政策金利差は0.5%に拡大した。金利が低く、為替が安くなった方が、輸出競争力の面では有利である。英国ではキングBOE総裁がゼロ金利政策を導入する可能性も排除しない発言を行っており、市場関係者や元MPC(イングランド銀行金融政策委員会)メンバーの中には、ゼロ金利導入を予想している向きもある。

 英国やユーロ圏の債券相場は4日、大幅利下げ決定にもかかわらず、下落した。英国では、2年債利回りが一時1.57%まで低下し16年ぶり低水準をつけた後、1.81%に上昇。ユーロ圏では、独2年債利回りが一時1.98%まで低下した後、2.20%に上昇した。10年債についても、それぞれ同様の値動きになった。英国ではポンド下落に伴う物価上昇リスクをBOEが示唆したことが嫌気されたという。また、ユーロ圏では、市場が織り込んでいた通りの利下げ幅にとどまったことや、トリシェ総裁の会見内容が嫌気されたという(ブルームバーグ)。

 しかし、主要国の利下げ(ないし量的緩和を含む追加金融緩和の流れ)に、打ち止め感はまったくない。4日の英欧債券相場の動きについては、「噂で買って事実で売る」という格言に沿ったものだと理解することができるし、米ビッグ3救済問題や米雇用統計といったビッグイベントを控えて、当面の利益を確定しようとする動きが出やすかった面もあるだろう。

 筆者は引き続き、内外の長期金利は低下余地を模索する流れにあるとみている。2009年前半にかけて、10年債利回りは、日本では1%前後、米国では2.25%程度までは低下するだろう。国内債券市場では最近、財政出動による国債増発を気にかける向きが多い。だが、不況期の財政出動については、それが中長期でみた経済のコースを変えるものになるかどうか、成長力の「先食い」になってしまい将来の「後始末」(財政緊縮)による成長鈍化につながるものかどうかなどを、しっかり見極める必要がある。目先の「荷もたれ感」や需給悪化観測で金利が不用意に上昇したところは、投資家にとって、絶好の押し目買いの機会になるだろう。

 長期金利のトレンドは、需給では形成されない。基本はあくまでも、将来の景気・物価・金融政策見通しである。日本よりも需給悪化観測が強い米国で、イールドカーブがブルフラット化していることに留意されたい。