「こんなのは聞いたことがない。JALは一体何を考えているのか」――。2010年3月初め、都内で旅行代理店を経営する男性は怒りを露わにした。航空会社が遅くとも1カ月前には出してくる代理店向けの料金が、4月以降の便について日本航空(JAL)から未だ提示されてこないため、「これでは売りたくても売りようがない」
航空会社の料金設定は、(1)国際航空運送協会(IATA)が決める正規料金 (2)航空会社ごとに決める割引料金(「悟空」や「バースデー割引」がこれに含まれる) (3)航空会社が代理店ごとに個別に提示する割引料金(ツアーに含まれる航空券や格安航空券など)――に大別される。
最近は航空会社の直売でも大幅な割引が時折見られるが、航空券の大半は代理店経由で販売されるのが実情だ。市中の代理店向け料金は、通常は約2カ月前までに提示される。日本への売り込みに熱心な外国航空会社は、1年前から出してくることも珍しくないという。
代理店に対する割引料金は全て相対交渉で決まるため、決して表には出てこない。謎に包まれた商取引とはいえ、1カ月を切っても提示できないJALでは何が起きているのか。
ANAが安値攻勢を警戒、JALは公的資金で毎回復活する「ゾンビ」
実は経営破綻後の新生JALを悩ませているのが、「公的資金を投入された会社にはどこまで安売りが許されるのか」という難問なのだ。もちろん高ければ、全日本空輸(ANA)や外国航空会社には勝てない。かといって安くしすぎすると、「国とJALが一体となった民業圧迫」との批判を招く。
JALが会社更生法の適用を申請した2010年1月19日の夜。ANAは、欧州では公的資金が投じられた航空会社に過度な値下げを禁じるルールがあると指摘した上で、「健全な競争環境が歪められ、公正かつ公平な競争環境が確保されなくなる可能性がある」との懸念をいち早く表明した。
その後、JALが矢継ぎ早に発表した割引運賃に対しても、ANAは猛反発した。(なお、JALを管理下に置く企業再生支援機構は「あくまでもマーケット価格」と主張している)