「本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 今回からは「(その3)共存共栄」について説明します。企業と、その企業を取り巻く利害関係者との関係はどうあるべきかについて考えていきます。「共存共栄」は本流トヨタ方式の根幹を成す考え方であり、行動規範でもあります。

 本流トヨタ方式における共存共栄を説明する前に、今回は自然界で生物同士がどのように共存共栄の関係を構築し、機能させているかを見ていきたいと思います。

 人間には感情があり、集団心理があります。その行動は複雑なので一筋縄ではいきませんが、自然界の現象は科学的な根拠があり、分かりやすいので、共存共栄の本質をつかみ取ることができます。

手作業でドライバーを回していたベンツ工場の作業員

 現在、地球上には1000万~5000万種の生物がいると推定されています。大局的に見れば、地中や海中の栄養分と太陽光で植物が育ち、その植物を餌にした動物が育ち、動物が移動することで植物の生育地域を広げ、その動植物に数多くの微生物が共生し、動植物が死んだ後は微生物がその身体を分解し栄養素として地中や海中に戻します。このように地球上では、動物、植物、微生物が共存共栄しています。

共存共栄には様々なタイプがあります。人間の目には見えない微生物の世界にも共存共栄があります。例えば、畑の地中には多種多様な微生物が生きています。場所によっては1グラムの土の中に1億個を超えるほどの微生物が生きているといいます。

 地中では 地表から地底に向かって徐々に酸素濃度が下がっていきます。その環境条件の変化に従って、1ミリ以下の薄い層ごとに微生物が棲み分けをしているといいます。畑の中は、いわば微生物社会として強固な階層構造を持っているわけです。

 この階層構造の中に、人が勝手に作物の種を蒔いても発芽率が低く、生育も悪く、収穫も十分なものとはなりません。既存の強固な階層構造に阻まれてしまうからです。

 そこで、ある時から人類は、畑を耕してその直後に作物の種を蒔くという技術を手に入れました。

 畑を耕すと、地表にある雑草を取り去ることができるだけでなく、地中の微生物の強固な階層構造を破壊することができます。微生物の勢力構造を混乱状態にするのです。その時に作物の種を蒔くと、発芽率と生育がよくなり、収穫を格段に増やせることを発見したのです。

 この話は会社組織にも当てはまります。平穏な状況が続くと、それに適した共存共栄の生態系が組織内に出来上がってしまい、改革の種を蒔いても成果が上がらなくなります。