提携を発表した記者会見におけるVWとスズキの首脳陣。左からフェルディナント・ピエヒ VW監査役会議議長、鈴木修 スズキ社長、マーチン・ヴィンターコルン VW経営会議議長(社長)、デットルフ・ヴィッテグ VW副社長 (写真提供:Volkswagen AG)
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 世界バブル崩壊の第1章のただ中にあって、最大の消費財産業である自動車業界にも嵐(「暴風」と言った方がいいかな)が吹き荒れた年となった2009年。その嵐が収まりそうな気配は、まだ見えてこない。

 そんな中で「フォルクスワーゲン(VW)とスズキが資本提携」というニュースが飛び込んできた。一般紙や経済系のメディアではとかく「スズキの『安くクルマを造る技法』にVWが期待」「スズキにとって『環境対応技術の開発』にVWを頼ることができる」のが、それぞれのメリットである、と紋切り型の理由が語られていた。

 しかし、この2者が手を結ぶことの意味は、もっと広く深いはずだ。

クルマを通して浮かび上がる企業活動の軌跡

 自動車メーカーがその時々にどう動いてきたか、企業組織としての能力や意志はプロダクツに表れる。

 私自身、1年間に延べ百数十台のクルマを「味見」する中で、目で見たり身体で触れたりする部分はもちろん、それ以上に自ら操って走らせる中から、そうした「企業のあり方」が感じ取れるようになってきた。

 もちろんその前段として、クルマそのものの移動空間としての資質を体感し、評価する。その中から「作り手」がどんなものを造ろうとしているのか、その思いの強さや深さ、あるいはその逆の思念や事情が伝わってくる。それを積み重ねる中で、個々の製品を通して、さらには同じ企業の複数の製品を重ね合わせて、組織としての企業のあり方が「見えて」くるのである。

 その「企業造影」は、その時点から何年か前までを遡る時間軸の中での「企業像」だと見ていい。製品の企画を組み立て、それを形にするプロセスが動き出すのは、日本では最短で発売の1年半前、一般的には2~3年前。

 欧州メーカーの基幹製品であれば、数年も前であることが多い。言い替えれば、欧州メーカーの場合は、企業として方向転換を始めたとしても、それがプロダクツに表れるまでには日本よりもずっと時間がかかる。

 経済の視点から自動車産業を、そしてそれぞれの企業を見て、語る時には、製品がどれだけ売れているか、その結果としての利益がどうなったか、が主な指標となるが、それは自動車という製品を送り出す企業の根本であるはずの「ものづくり」の内容を示すごく一部分でしかない。それと同時に、それぞれの企業の活動としては、何年も前に形を成したものの結果を見て、論じているにすぎない。