5日の債券市場で、長期金利の「悪い上昇」が、また進んだ。10年物国債(303回債リオープン)入札は、事前に警戒された以上に低調な結果に終わり、各年限で金利水準は切り上がる展開。10年物国債(304回債)利回りは1.440%に上昇。同(303回債)利回りは1.455%まで上昇する場面があった。

 この問題について主要閣僚から出てきている発言内容には、市場の失望を誘うものが少なくない。以下のような3つの問題点がある。

(1)今般見られている長期金利上昇について、「悪い金利上昇」の性格が濃いことを、主要閣僚は明確に認めようとはしていない。

~例えば、菅直人副総理・国家戦略・経済財政相は2日の衆院予算委員会で、「景気がよくなることを見通しての上昇と、国債発行が増えることによる上昇とがあるが、まだどちらとも言えない。注意深く見ている」という答弁をしていた。状況をしっかり認識した上で、政策担当者としての責任を果たそうとする行動を、積極的に取っていく必要があるのではないか。

(2)税収下振れによる財政事情の予想を超える悪化について、これは麻生太郎前政権から引き継いだ「負の遺産」だという整理をした上で、あたかも「責任転嫁」をしようとするかのような発言が、政府側から出ている。

~麻生前内閣までの自公政権下での政策運営が財政事情の大幅な悪化につながったのだから、鳩山由紀夫政権としては政権交代後の財政状況の変化だけに責任があるわけで、税収下振れ分を赤字国債増発で賄ってもやむを得ない。そうした考え方は、筆者が以前のリポートでも指摘したように、決して望ましいものではない。景気・税収の急悪化は、米国でのバブル崩壊が主因であり、日本の与党がいずれの党かにかかわらず起こった話である。補正予算の見直しで3兆円近い財源が出てきたのであれば、まず国債増発の回避に充てられるべきであろう(10月28日作成「10年債利回り1.4%台に上昇」参照)。

(3)財政再建目標を設定するまでのつなぎの役割をとりあえず果たすとみられている国債発行額の「44兆円枠」について、これを緩めようとするかのような発言が政府側から断続的に出てきている。

~2009年度補正後の国債発行額44.1兆円を、2010年度予算の国債(新規財源債)発行額の上限(シーリング)とする。藤井裕久財務相は、「市場も44兆円を前提としてみている」と何度か発言し、「44兆円枠」を事実上設定したい考えをにじませている。むろん、2009年度当初予算における33.3兆円ではなく、麻生前内閣が追加経済対策で発行を上積みした後の44.1兆円を持ってきたことだけでも、債券市場から見れば、なんとも「緩い」発行上限ラインであるわけだが、これさえも税収動向如何では守られない場合があることを示唆する発言が複数出てきており、市場のセンチメント悪化につながっている。

 平野博文官房長官は2日午前の記者会見で、「(来年度の国債発行額を)それ(44兆円)以下に当然していくという考え方を基本に持ちつつ、それ以外の外的要因、例えば、税収が今まで以上に落ち込んでいくとか、こういうところについての考え方としては、一つにはその財源をどう補っていくかと、こういうところの判断は別途あるかもしれない」と発言。菅副総理・国家戦略・経済財政相は4日の会見で、「首相の(国債発行を44兆円以下に抑制するため最大の努力をするという)発言は重く、考え方の基準になる。ただ、税収の見通しなど不確定要素があるので、さらなる協議が必要だ」と発言していた。