秋は、サンマ、サバ、イワシなどの回遊魚が旬を迎える季節。しかし、今年は、福島第一原子力発電所の事故による水産物への放射性物質の影響を心配している人もいることだろう。

 海外各国は、日本以上に日本の水産物に厳しい目を向けている。8月11日、EUの欧州委員会が、福島第一原子力発電所事故を受けて、日本から水産物を輸入する際に、放射性物質の検査を強化するようEU各国に勧告したことが分かった。

 さらに欧州委員会は、日本以外の国が日本近海を中心とする海域で漁獲した水産物も検査対象とし、回遊性の高い魚については遠洋で獲った場合でも厳密に検査を行うのが妥当、という判断をした。

 日本近海の水産物に神経をとがらせているのは、EUだけではない。農林水産省がまとめた「諸外国・地域の規制措置」 によると、8月26日時点で、中国は、福島周辺の10県で獲れた水産物を輸入停止とし、それ以外の県で捕れた水産物も、政府が作成した検査証明書および産地証明書などを要求している。また、米国も、日本から輸入した水産物についてサンプル検査を行っている。

 国内でも、水産物の放射性物質の調査が行われている。ただし、北海道から神奈川県に至る10都道府県に限られており、また、出荷制限の基準となる暫定規制値を設けている。「とにかく受け入れることを禁止する」といったような措置は、もちろん取られていない。

 EUや中国が、日本近海という広域にわたって検査対象としている点から、他国が日本より厳しい措置を取っていることが分かる。世界は、高濃度の放射性物質を含む水が海に放出されたことを強く警戒しているのだ。

太平洋のセシウム137濃度は最大で平常時の14倍に

 確かに、今回のように、大量かつ高濃度の放射能汚染水が海洋に放出された例はかつてない。チェルノブイリの原発事故では、大気や土壌に放出された放射性物質が徐々に海に移動していったが、福島第一原発事故では、直接、海に放射性物質が放出された。

 福島第一原発2号機のタービン建屋の地下階に溜まっていた高濃度の放射性物質を含む汚染水の流出を回避するため、この高濃度汚染水を集中廃棄物処理施設に移す必要が生じた。そこで、もともとここに溜まっていた低濃度の放射性物質を含む約1万トンの汚染水を4月4日から10日まで海に排出した。