10月1日、長妻昭厚生労働大臣が新型インフルエンザワクチンの接種体制を公表し、様々なメディアがそれを伝えました。しかし、医療に従事している者からすると、いつものことながら、伝えてほしいことがうまく報道されていないもどかしさばかり感じるのです。
まず、無用なパニックを引き起こさないためにも、次の事実を明確に報道すべきです。それは「ワクチンは重症化防止に一定の効果が期待されるものの、感染防止の効果は保証されていない」ということです。つまり、ワクチンは感染防止を目的に打つものではないのです。
また、スケジュールにしても、10月19日から開始されるのは一部の医療従事者だけです。妊婦は11月以降、通常の基礎疾患の人は12月以降、1歳未満の子供のいる保護者や小学校高学年は年明け以降の接種となります。そのことが、はっきり伝わっているのでしょうか?
インフルエンザワクチンの効果を十分に高めるためには2回接種する必要があり、通常のワクチンの2倍の手間ひまがかかります。でも、それ以前に、事実を正しく伝えない報道のおかげで、現場はワクチンスケジュールの問い合わせ電話への対応だけで疲弊してしまうと思います。
値段が3倍にも高騰したマスク
水際作戦や濃厚接触者に対する停留措置の甲斐なく、日本国内で新型インフルエンザが確認されてから、関連ビジネスがいろいろ生まれています。中でもマスクは「特需」とも言える状態です。
医療機関でさえ、通常業務では「N95マスク」を使用していません。それを超える「N99マスク」(着けるだけで息苦しく、長時間連続使用は困難)が、「新型インフル対策として最低限揃えておくもの」としてビジネスパーソン向けに販売されています。
しかし、新型インフルエンザは、中学生と小学校高学年を中心とした10代の感染が大半です。中高年者の発症はきわめて少ないという事実がみんなに伝わっていないのでは? と思ってしまいます。
近隣のクリーニング店も、「当店をご利用いただいている方だけに、マスクを特別価格で販売します」と広告を出していました。マスクの在庫確保がビジネスにつながっているわけです。
そのため、半年前までは、50枚300~400円程度で流通していた高機能マスクが、ここ数カ月は1000円を超える値段で取り引きされています。50枚1000円でも、一般家庭であれば「一家に一箱」という気持ちでそれほど高いと思わずに購入できる値段でしょう。
ところが、毎日毎日使い捨てで大量に消費する医療機関にとっては、コストが3倍に跳ね上がるのですから大打撃を与えます。そこまで値段が高騰してしまうと、赤字に悩む多くの病院にとっては、これまでのように受診患者さんおよびその家族が使用する分までマスクを提供するのはほぼ不可能でしょう。