インドネシアの経済動向をものづくりの目線から見る時に、二輪(バイク)産業は1つのバロメーターになる。インドネシアの平均的な国民がバイクを買うことは、ちょうど日本人が新車を買うことに相当する。売れ筋のバイク(カブ)の値段は1000万~1500万ルピアであり、月収の5~10倍である。したがって消費者はバイクを買うためにローンを組む。また、これ自体も大きな金融ビジネスになっている。
アジアの各国のバイク保有台数を調べると、台湾はおよそ2人に1台、タイは3人に1台の割合となる。インドネシアは7.9人に1台である。
この数字を比較すると、台湾やタイなどは市場が飽和を迎えていると見るべきなのかもしれない。一方、インドネシアは2000年時の統計が24.8人に1台であり、当時と比べればバイクの普及は進んでいるものの、ASEANの中ではまだまだこれから成長する市場である。
市場規模の大きさにも注目すべきだろう。ASEANの中でもタイやベトナムは年間200万~ 300万台規模の市場である。インドネシアは1国で500万台を超える市場であり、ASEANの中では最大である。タイプとしては、インドネシア市場ではこれまで安価で走力のあるカブが中心であった。しかしこれからはカブに加え、スポーツやスクーターの市場が伸びると見られる。
中国メーカーの攻勢から市場を死守した日本メーカー
2000年以降に本格的に拡大してきたインドネシアのバイク市場であるが、これまでの市場の変化は激しかった。
1つ目の転換点は2002年前後にあった。市場の急拡大を受けて、中国のバイクメーカーが安価な二輪を投入してきた。それまでのインドネシア市場はホンダをはじめとする日系バイクメーカーが圧倒的な優位にあったが、中国市場での供給過剰を受けて、二輪メーカーは「畑に群れるイナゴ」のように東南アジア市場に輸出攻勢をかけてきた。
中国製バイクの真価は、まずベトナム市場で問われた。ベトナムでは1999年から2001年にかけて中国製バイクの市場シェアが一時的に75%にまで達した。だが、中国からのKD(ノックダウン)部品の不正輸入をベトナム政府が規制したことや、市場における品質問題などから、その後30%近くまでシェアを下げた。ホンダも中国製バイクに攻勢をかけるために、値段を半分近く下げた新商品を投入した。
インドネシア市場でも、ほぼ同じことが起きた。2000年以降、インドネシアでも低価格の中国製バイクの販売台数が増え、2002年には一時、市場シェアが3割程度に達していた。
しかし、ここでも品質問題が露呈し、中国製バイクは市場から姿を消すことになる。日系バイクメーカーが中国勢から市場を守ったのである。
2005年のデータでは、市場規模537万台のうち、ホンダ(44%)、ヤマハ(44%)、スズキ(10%)であり、3社合計で98%となる。非日系企業はほとんどこの成長市場に食い込めていない。
ホンダを猛烈に追い上げたヤマハ
中国製二輪以外に、直近の市場動向変化として見るべき点が2つほどある。第1がヤマハの急速な追い上げである。下の図はインドネシアの二輪市場のメーカー別シェアである。ヤマハの追い上げに対して、スズキとホンダが苦戦を強いられている様子が分かる。
インドネシア市場はもともとホンダのブランド力が強かった。同社の進出は1972年にさかのぼる。2000年までは年間100万台に満たない生産台数をフェデラルモータとホンダフェデラルの2社で製造し、海に分断された島国の市場に二輪車を供給してきた。