日銀は16~17日に開催した金融政策決定会合で、景気の現状についての判断を「わが国の景気は持ち直しに転じつつある」とし、2カ月ぶりに上方修正した。主因は、新興国向けを軸にした輸出の増加と、鉱工業生産の増加。「内外の在庫調整の進捗や海外経済の持ち直し、とりわけ新興国の回復などを背景に、輸出や生産も増加している」と、発表文に記述された。「景気については、新興国の回復といった上振れ要因が生じている」とも、新たに明記された。また、金融環境についての判断も、「厳しさを残しつつも、改善の動きが拡がっている」へと前進させた。
その後、山口廣秀日銀副総裁が全国証券大会で行った挨拶の内容が公表された。
景気見通しについては、当面の持ち直し傾向と、バランスシート調整に由来する先行きの不確実性の強さとを、あえて「両論併記」した感が強い。「世界経済の持ち直しに向けた動きは、しばらく継続するとみられますし、このところ新興国の回復傾向が明確となっていることは心強い材料です。もっとも、今回の世界的な景気後退には、2000年代半ばにおける欧米諸国を中心とした様々な過剰の蓄積と、その巻き戻しの過程で生じる企業や家計のバランスシート調整という要因が働いています。今後の世界経済回復のモメンタムは、こうしたバランスシート調整がどう進むかに大きく依存していますが、この点については、依然、不確実性が高いと判断しています」という発言があった。
一方、物価の見通しについては、「昨年秋以降の急激な景気の落ち込みを反映して、経済全体の需給が大きく悪化し、その改善テンポも緩やかとみられます。したがって、物価の下落圧力が相応の期間続く可能性が高く、企業や家計の中長期的な物価上昇率の予想が下振れることがないかどうか、丹念に点検していきたいと考えています」という、物価下落の長期化とデフレスパイラルに陥るリスクを警戒する発言があった。
なお、企業金融支援措置の見直しについては、「市場機能の自律的な回復をかえって阻害しないか、という観点から点検していくことも大事なこと」というフレーズがあった点が注目される。
その後報じられた白川方明日銀総裁の記者会見での発言には、以下のようなものがあった。鳩山政権の政策運営については、亀井静香郵政・金融担当相の返済猶予制度導入構想を含め、ノーコメント。金融環境については、判断を一歩進めたとしつつも、日銀が行っている各種臨時措置については12月末までに判断する、という姿勢を変えなかった。
「テールリスクは減ってきているが、中心的見通しを慎重にみているのは変わっていない」
「景気の先行きは、下振れリスクのほうが高い状況」
「民間需要の持続的な回復力には、まだ自信が持てない」
「需給バランス悪化による物価下落圧力はやや長い期間にわたって残る可能性もある」
「円高は短期的には物価を下げる要因だが、中長期的な物価判断は変えていない」
「円高は短期的にはデフレ的圧力だが、中長期的には経済を押し上げる力もある」
「デフレスパイラルのリスクが高まっているとは判断していない」
「金融システムとインフレ期待は、ともに今のところ安定している」
白川総裁発言についてのマスコミのヘッドラインの一部が円高容認と受け止められたため、外為市場では対ドルや対ユーロで円買いが強まる場面があった。
日銀は、景気の状況について、足元のところで判断を従来より半歩前進させつつも、構造不況の厳しさを念頭に、先行きの下振れを警戒する慎重姿勢を変えていないと判断される。一方、2011年度もCPI(消費者物価指数)コアのマイナスが予想される状況下、物価の面では完全に「守勢」に回っている。円高についても、為替政策を所管する藤井裕久新財務相のコメント内容に、ある程度追随せざるを得ない面がある。
したがって、日銀の利上げが長期にわたり見込めないという認識を変える必要は生じていないものと、筆者は判断している。