この夏、金融庁の永田町担当者たちは、比較的ゆったりとした休暇を取ろうとしている。そこには諦観もあるかもしれない。
8月30日の総選挙で政権交代が実現する可能性は高まっているが、民主党が7月に公表したマニフェストの本文には金融・資本市場に関する公約が1つも入っていなかったためだ。2005年夏の郵政解散直後のマニフェストでは、本文で「公正・透明な市場経済へ」「貯蓄から投資への転換、促進」を大きく掲げていたのと比べると、様変わりと言ってもいい。
自民党も似たり寄ったりの状況だ。「新金融システムの構築」「市場競争力の強化」を掲げた4年前から一転、今回は金融の視点がほぼ抜け落ちた。
票にならないテーマには無関心
選挙戦での「金融軽視」は予想通りと言える。2008年9月以降、深刻化した金融危機で世界の様相は一変した。米欧だけではなく、日本でも金融・市場主義への反感が広まった。
ある民主党関係者は「今のご時勢、貯蓄から投資へ――などとは叫びにくい」と、マニフェストから金融が抜け落ちた事情を説明する。ある自民党幹部は、もっと率直に「リーマン・ショック以降、ますます金融では票が取れなくなった」と口にする。
関心が向かない以上、金融庁の永田町担当は「新政権発足に備え、英気を養うしかない」のだろう。
しかし今夏、国際的な金融規制改革は重大な局面に差し掛かっている。
9月24日・25日に米ピッツバーグで開かれる第3回G20金融サミットでは、金融機関に対する資本規制強化で踏み込んだ方向が示される公算が大きい。
規制が強化されれば、巨額の公的資金で資本増強された欧米金融機関と比べて、国内大手銀行が相対的に不利な立場に置かれるのは必至。それ故に、「本来であれば、今は、政治的な仕込みが重要な時期」(国際金融筋)のはずだ。
金融庁などは政界に事情説明を重ねてきたが、選挙モードに入った永田町には、票にならない問題に関わり合う余裕はなく、「新政権はピッツバーグでいきなり厳しいハードルに直面する可能性がある」(同)。
銀行による景気の振幅拡大を抑制
金融危機の痛みを教訓に、各国当局は危機の再発防止に向けた金融規制改革を協議してきた。その柱が、銀行などに対する自己資本比率規制(バーゼルII)の強化だ。
ここで4月のロンドンG20金融サミットまでに合意された内容を振り返ってみたい。技術的な改革案は多岐に及ぶが、最大のポイントは「銀行による景気循環の増幅(プロシクリカリティ)を抑制するため、好況時の必要自己資本の上積みを検討する」ことと言える。
現状のバーゼルIIで、国際的に活動する銀行に求められる自己資本比率は最低8%。理論的には最大で資本の12.5倍(8%の逆数)までのリスク量を投融資できる。好況時には銀行資本が増し、融資余力が向上するため「銀行は業務を急拡大し、景気を過熱させる傾向が強い」(金融庁幹部)。