12日に投開票が行われた東京都議会選で民主党が大幅に議席を増やし、第1党になった。自民党は過去最低と並ぶ38議席の惨敗。民主党は衆院に内閣不信任決議案、参院に麻生太郎首相に対する問責決議案を提出する方向。このような情勢を受けて、麻生首相は14日にも衆議院を解散する意向を固め、自民党幹部らに12日夜に伝えたと報じられている。選挙の日程としては、「7月27日公示・8月8日投票」が想定されている模様。一方で、早期解散に慎重な自民党内の勢力などが強く抵抗することが予想されており、政治情勢は緊迫の度を増している。

 マーケットの側では、総選挙後に民主党主導の政権が誕生した場合に各市場がどのような反応を示すのかについてブレインストーミングを行う投資家がすでに増えつつあったが、都議選の結果を受けて、そうした動きが一段と活発になりそうである。民主党のマニフェストの内容がまだ正式に固まっていないことや、総選挙がすでに終わったわけではなく選挙後の政権の枠組みや閣僚の顔ぶれも未知数であることなどから、現時点でそうしたブレインストーミングについて、決め打ち的な結論を出すのは難しい。しかし筆者としては、以下のような2点を念頭に置いておく必要があるのではないかと考えている。

【民主党が主張する捻出可能財源は当初の20兆円から16.8兆円に縮小】

 債券市場では、民主党主導の政権が誕生した場合には追加経済対策が早急に打たれて、その財源としてまとまった規模の国債増発が行われるだろうという予想が根強いようである。しかし、そうした話は筆者の知るところ、民主党の政権公約絡みの報道にはまったく出てきていない。麻生内閣が実施した大規模な追加経済対策および国債増発を国会論戦で強く批判してきた民主党が、同じようなことをそのままするかどうか。

 実際に見られているのは、民主党が無駄遣い削減や埋蔵金活用などで、4年間で捻出可能だとしている財源の金額が、徐々に小さくなっているという現象である。当初「20.5兆円」(6月23日 読売新聞)とされていた財源捻出可能額は、「17兆円」(7月2日 朝日新聞)、「16.8兆円」 (7月11日 日経新聞)と、段階的に縮小してきた。政府・与党が民主党の政策構想について、財源の裏付けが不明確であり、捻出できるとしている金額が過大だという批判を強めているという事情が、その背景にある。月2万6000円の子ども手当て創設に関連しては、「配偶者控除や扶養控除などが廃止され、増税分は2.7兆円に上る。負担増になる世帯や業種の反発も予想される」という(7月2日 朝日新聞)。

 また、公共事業や補助金の削減、公務員の人件費2割削減といった様々な歳出カット策が、地方経済や公務員層の消費行動にマイナスの影響を及ぼす可能性も、意識しておく必要があるだろう。

【民主党の外交政策に対する米国の警戒感】

 民主党と米国の組み合わせというと、市場関係者ならすぐに思い出すのが、5月13日に報じられた、民主党「次の内閣」財務相である中川正春衆院議員が英BBCの取材に対し、民主党が政権を取ればドル建ての米国債購入は手控える、という趣旨のコメントを発した一件である。総選挙で民主党が勝利した場合には連立政権の一翼を担うとみられる国民新党の亀井静香代表代行が5月13日にワシントンで「火消し」発言をしたほか、民主党からも「次の内閣」金融副大臣である大久保勉参院議員が7月8日、外貨準備の運用では為替市場にインパクトを与えない形で中長期的に多様化を図ること、およびドル基軸体制を守ることが日本の利益になることの2点に言及した(7月8日 ロイター)。

 米国側では、民主党主導の政権が誕生する場合の日米同盟のありようについて、一定の警戒感が出てきているようである。

 米下院外交委員会アジア太平洋小委員会は6月25日、日本をテーマにした公聴会を開催した。駐日大使候補にも名前が一時挙がっていたナイ元国防次官補は「民主党は日米同盟強化を進める現政権の多くの施策に懐疑的立場を表明してきた」「日本政界の不確実性と再編成は今後数年間続き、同盟関係に摩擦を引き起こすだろう」と発言した。また、グリーン元国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長は、「民主党は日米同盟を支持しているものの、『日本の自立性を高めよ』などと雑音を出している」と不快感を表明し、「民主党には政権移行のための綿密な計画がなく、安保政策をめぐる党内対立から政権を取ってもいつまで続くか不透明だ」との厳しい見方を示した、という(6月25日 時事)。

 仮定の話だが、民主党主導の政権が外貨準備運用としてのドル建て国債購入の見直しに動くという見方が市場で強まると、米国債の需給悪化懸念につながって米長期金利が上昇する一方で、ドル/円相場がドル安円高に大きく動くということにもなりかねない。そうした場合の国内債券相場への影響は見通しにくいが、筆者は、円高・株安を通じて、結局は債券高の動きが強まりやすいのではないかとみている。

 このほか、株式市場で民主党主導の政権誕生なら株式は買いと主張する向きが指摘する、国会の「ねじれ」が解消する可能性についても、株高・債券安の材料だと即断すべきではない。民主党主導の連立政権が安定するかどうか、政界再編の動きが激しくなり先行き不透明感が強まらないか、といった点の見極めも必要になってくる。

 以上、いくつかの角度から考察を加えてきたわけだが、いずれにせよ言えることが1つある。それは、総選挙の結果やその後の政策運営よりも、ファンダメンタルズや金融政策の先行き見通しの方が、債券相場(長期金利)のトレンド形成の上で、圧倒的に影響力が大きいということである。総選挙後も、10年物国債利回りが1%前後に低下するだろうという筆者の予想に、おそらく変わりはないだろう。