前回(その「10秒削減」がムダを生む)は、頭ごなしに「ムダ取り改善」をやらされたTさんの話をしました。今回は、本流トヨタ方式で作業の改善がどのように行われるのかについて説明します。

 Tさんはある製品を1つ作るのに60秒かけて、1日の必要量500個をほぼ定時までに完成させていました。ある時、職長はTさんの仕事ぶりを見て、作業を改善すれば1つを50秒で作れるはずだと考えました。

 本流トヨタ方式を信条とする職長は、まず職場内の仕事を再配分します。そして1つの製品について約10秒かかる仕事を準備してTさんの所に持っていき、次のように伝えました。

 「職場のみんなのために、この10秒の仕事をさらに受け持ってほしい。しばらくは残業しなければ終わらないだろうが、君なら改善して対処できるはずだ。
改善の度合いを測るために “生産管理板” を横に置くから、1時間ごとの出来高を書いておくこと。部品や工具の置き方は自由に変えてかまわない。でも、品質にかかわる部分は事前に相談すること」

 Tさんは納得し、自分自身で改善を進めることになりました。

必要性があってこそ改善は行われるべき

 まずここでのポイントは、職長がTさんに対して、改善する必要性、言い換えれば「課題」を与えたことです。つまり、必要性があってこそ、改善は行われるべきなのです。

 分かりやすいようにお金の話をします。お金持ちの家の息子が、親から上限無しのカードを渡され、いくら使っても文句を言われないとしたら、彼の頭に「ムダ遣い」という概念は生まれないでしょう。一方、生活費まで自分で稼いでいるような苦学生は、ペットボトル入りのお茶を買うことさえ大変なムダ遣いだと感じ、自宅でお茶を詰めて持ち歩くことでしょう。このように、困らなければ「ムダ」という概念は生まれてこないのです。

 

 別の例を挙げましょう。皆さんの中で、休憩時間にタバコとコーヒーを買って一服する人はいませんか? 休憩時間がたっぷりあれば何も考えることはありません。ところが休憩時間は短くて、貴重な時間です。休憩時間にいろいろとやりたいことがある人は、タバコとコーヒーをなんとか短時間で手に入れられないかと懸命に考えます。そうすると「自動販売機の前でコーヒーが出てくるまで立って待っている時間」がムダだと気がつくのです。

 それならば、自動販売機がコーヒー豆をひいて、ドリップして、カップにコーヒーを注いでいる間にタバコを買ってくればいいのです。タバコを買うのに要した時間が、コーヒーを買う時間の中にすっぽりと入ってしまいます。これが手順の改善です。必要があるから、困ったから、ムダが見つかり、改善できたというわけです。