現場の「改善」(本コラムでは「カイゼン」ではなく「改善」と表記します)に関心を持つ方と話をしていると、多くの皆さんが「ムダ」という言葉を頻繁に口にされます。「ムダ」に関心を持つこと自体は大変に結構なのですが、大多数の方がムダを誤解しているように思います。

 「この世にはムダがいっぱいある。特に生産現場にはいっぱいあるから、そこへ行ってムダを拾い集めると儲けることができる」といった発言をする人がいます。

 また、「1万円札から10円玉まで7種類の貨幣があるように、一番大きな『作り過ぎのムダ』から一番小さな『不良を作るムダ』まで、7種類のムダがある。それらが誰でも分かる形で、あちこちにいっぱい隠されている」と言う人もいます。そうした発言を聞いていると、「宝探しをすれば大儲けができる」と思い込んでいるのでは、と心配になります。

 本当にそうなのでしょうか。
今回はムダを取ることがいかにムダであるかをお話ししましょう。

コンサルタントの先生が「ムダが多い」と指摘

 工場で、Tさんがある製品を約1分間かけて作っていたとします。その製品は1日に約500個売れており、Tさんはほとんど定時内で作り終えていたとします。Tさんとしては、「自分はいつも頑張っている。残業も滅多にしない。会社に立派に貢献している」と思っていました。

 ある日、そこへ工場長と偉いコンサルタントの先生がやってきました。コンサルタントの先生はTさんの作業をじっと観察し、何やら工場長に話をし、やがて去っていきました。

 次の日、職長がTさんの所へ血相を変えてやってきました。コンサルタントの先生が工場長に「ここの作業者は、手待ちのムダや動作のムダが多い。私が言う通りの方法でやれば10秒位削減できそうだ・・・」と言っていたとのこと。職長は課長に呼びつけられ、油を絞られたというのです。

 職長はTさんに向かって、直ちにコンサルタントが言っていた通りの方法でやれと命じました。

 Tさんにとっては青天の霹靂です。しっかり会社のために働いているという思いがありますから、面白くありません。上司の命令だから仕方なく言われた通りの方法で作業してみました。すると悔しいことに速くできるのです。慣れてくれば10秒ぐらい速く仕事が終えそうな気がしました。

 普通、ムダ取りの話はここで終わります。しかし、実はここからが大問題なのです。