世界経済、回復への転換点に「近づいている」 BIS中銀総裁会議

ゼロ金利にしない理由は明示しません!〔AFPBB News〕

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 さて、各国中銀がゼロ金利を回避するのはなぜか。日銀と同様に市場取引の枯渇や与信枠の消滅などを懸念していると推測されるが、これまで、ゼロを忌避する理由は特に明らかにはされてこなかった。4月17日に訪日したトリシェECB総裁も報道機関とのインタビューでゼロ金利の弊害について問われ、「理由は明示しない。多くの理由がある、というだけだ」と述べるに留めた。

 最近になって具体的な説明を行ったのが、カナダ中銀だ。4月23日の金融政策リポート補足資料で、以下のように解説している。

 「中央銀行は政策金利をゼロにできる。しかし、(ゼロにするとインターバンク市場の資金のやり取りで)出し手と取り手が取引するインセンティブが失われる恐れがある。低金利によって市場機能が阻害されることを避けるため、下限金利を0.25%にした」

 この説明を目にした日銀マンは驚いた。G7の中銀として初めてゼロ金利の弊害が明確に指摘され、しかも白川総裁の主張と酷似していたからだ。同総裁は昨年11月25日、「短期金融市場の機能度と中央銀行の金融調節」と題する講演で次のように述べている。

 「量的緩和下では政策金利がゼロとなり、出し手は資金を放出するインセンティブが低下する一方、取り手も(オペで積極的に資金が取れるため)市場で調達する必要性が大きく低下した」

 確かに、カナダ中銀のロジックは、日銀マンらが言うように「白川ドクトリン」そのままだ。

 G7以外ではスウェーデン中銀(政策金利0.5%)が同様の副作用論を展開している。4月21日の金融政策概況で、「政策金利は0.5%となり、伝統的金融政策はほとんど緩和余地がなくなった。金利をゼロに近づけると市場機能に悪影響をもたらす恐れがある」と指摘する。

 中央銀行はお互いに学び合う存在だが、同時にライバルでもある。日銀の経験に基づく主張が正しくても、そっくり真似るのは抵抗があるもの。しかも、日銀はこれまで反面教師でもあっただけに、余計に真似したくない気持ちもあるはずだ。その意味では、カナダやスウェーデンのように日銀の言い分をほぼそのまま取り入れるのは稀な例だ。このことを一番喜んでいるのは、中央銀行界を知り尽くした白川総裁、その人だろう。

 実は、日銀執行部では必ずしも「白川ドクトリン」崇拝者が多数派を占めているわけではない。故に、「白川ドクトリン」が国際的に浸透していることを意外に感じている人も多いようだ。しかし、オペ経験のある日銀関係者は「どの中央銀行も基本的には実務家であり、ゼロ金利を目前にして弊害が認識されたのだろう。マクロ政策としてゼロ金利を避ける理由はないが、白川総裁の実務的な主張には納得するところが多かったのではないか」と分析する。

 当コラムは2008年12月5日(「なし崩しでゼロ金利復活も」)に、「日銀の市場機能論は、マクロ的観点では論理構成に無理があり、ゼロ金利に後戻りしかねない」とのシナリオを描いた。しかし、現実には、日銀をはじめ主要国中銀はゼロ金利を回避し続けている。世界経済の先行きは予断を許さず、未だ、「ゼロ金利」実現の可能性は否定できないが、世界的に「白川ドクトリン」が優勢となった現実は残念ながら認めざるを得まい。