景気悪化が深刻化する中、日銀は「ゼロ金利再導入」を断固拒否する構えを崩していない。その根拠が「金利がゼロになると市場機能が阻害される」(白川方明総裁)という市場機能論。金融実務に精通する日銀らしい主張だが、マクロ的観点からは論理構成に脆弱な面がある。また、あまりに専門的過ぎて一般の理解を得るのも難しい。分かりやすい骨太のメッセージを発信できなければ、現行の金利水準を防衛したくても、なし崩し的にゼロ金利へ逆戻りする敗北を喫しかねない。

 11月25日、日銀本店に短期金融市場の関係者が集まった。金融調節(オペレーション)の取引先である金融機関の担当者が、日銀幹部と懇談するのが目的だ。

 懇談の目玉は、白川総裁による講演「短期金融市場の機能度と中央銀行の金融調節」。ゼロ金利(あるいは金利ゼロになる量的緩和)が市場機能をいかに阻害するか、詳細な説明を交えて強い口調で訴えた。参加者が「日銀のゼロ金利拒否宣言」(外資系証券エコノミスト)と受け止めるほどの迫力だったという。

 そこまでゼロ金利を拒否するほど、日銀の「市場機能論」に説得力があるのか、検証してみたい。

 日銀理論の柱は、「(金利がゼロになると)市場機能が損なわれ、必要な時に市場で資金が調達できない」(白川総裁)という主張である。

 例えば、量的緩和期のように日銀の潤沢な資金供給で金利がゼロに張り付くと、金融機関は日銀の供給で “腹一杯” となり、市場で資金調達する必要が薄れる。この状態が長期化すると、クレジットラインや資金部門の人員といった市場インフラが縮小し、資金繰りのノウハウが低下してしまう。このため、将来のゼロ金利解除では、「市場インフラの再構築に長い時間と多大な労力を要する」(同)というわけだ。

 インターバンク市場で観察される現象としては、日銀の指摘する通りだ。ただ、「マクロ経済の安定」という金融政策の目的に比べれば、「インターバンクという日銀庭先での技術的な問題に過ぎない」(大手銀行)。

 深刻な不況に陥る時、金利は可能な限り低い方がよい。その極限がゼロだ。これによって市場機能が低下しても、民間銀行は日銀からゼロ金利で調達が可能なため、資金繰りに不安はない。むしろ、日銀はいきなり取引を打ち切らないため、安定した資金調達先を確保できる。

金融緩和VS市場機能、トレードオフか?

 逆に日銀が市場機能に固執するあまり、民間同士の資金調達を増やそうと、金利をゼロから「ある程度」高めに維持すれば、マクロ経済的には「“ある程度” の緩和をあきらめる」事態となる。

 換言すれば、クレジットラインや資金部門の人員を温存し、将来のゼロ金利解除を円滑にするほうが、経済全体の金融緩和効果よりも大事なのかという命題になる。これはどう考えても、日銀理論の分が悪い。

 金融政策の対象となるのは、1億3000万人の日本国民。それに比べ、ごくわずかなインターバンク担当者を確保するため、全国民に「金融緩和をあきらめて」と言えるだろうか。クレジットラインの維持も市場取引に関わる技術的な話に過ぎず、マクロ政策に影響を与えるほどのものではない。