(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年6月26日付)

トランプ氏が大統領に返り咲けば、米国が築き上げてきた民主主義の砦が音を立てて崩れ始める可能性がある(Grégory ROOSEによるPixabayからの画像)

 多くの億万長者やビジネスピープルがドナルド・トランプを支持している。それは意外なことではない。

 金儲けをするには都合がいいと彼らは考えている。

 トランプは税負担の軽減や規制緩和を公約に掲げている。彼の政策の一部――例えば減税や、中国や米国との同盟にタダ乗りしている国々への強硬姿勢など――は愚かではなかったと主張している人もいる。

 それに、ほとんどの民主党員と異なり、トランプと共和党は企業やビジネスピープルに好意的だ。

 その見返りに支持して何が悪い、というわけだ。

トランプ政権は本当に企業に優しい?

 たとえかなり狭義に検討したとしても、この考え方はあまり理にかなわない。

 まず、民主党政権は往々にして、企業にとってかなり良い政権だった。2007~09年の世界金融危機は共和党政権の監督下で起きた出来事だった。

 株式市場のバブル発生とその崩壊は、民主党政権下でも共和党政権下でも起きている。企業収益の対国内総生産(GDP)比の増減も同様だ。

 政府に対する信頼は1960年代に崩れ、その後、民主・共和両政権下で高くなったり低くなったりしている。

 また、経済政策におけるトランプの好みは、現状では間違いなく危険だ。

 彼は独立した中央銀行の価値を理解できておらず、金融引き締め政策を嫌悪している。財政赤字と債務残高が非常に危うい軌道に乗っているにもかかわらず、減税を公約している。

 トランプは中国のみならず世界全体を相手に貿易戦争を始めることを計画している。関税を引き上げて所得税の代わりにすることもできると示唆したことすらある。

 これは果たしてうまくいくのだろうか。

 米ピーターソン国際経済研究所(PIIE)のブログで指摘されたように、「端的に言えば、うまくいかない。関税とは輸入される物品に課されるものであり、米国の2023年の輸入額は3兆1000億ドルだった。一方、所得税は所得に課される税であり、所得の総額は20兆ドルを超えている。米国政府は現在、個人の所得税と法人税で約2兆ドルの税収を得ている。この所得税収すべてを関税で得ることは文字通り不可能だ」。