トランプが危険なワケ

 ジョー・バイデンは年老いているかもしれない。だが、トランプはクレージーだ。それも悲しいかな、見ていて楽しくなるようなクレージーではなく、危ういクレージーだ。

 トランプの本能は独裁者のそれだ。その点は、政界入りした当時から明白だった。

 だが、今回は2016年当時とは異なり、米国という国家とその憲法を解体するプログラムを手にしたスタッフが周りに集まっている。

 さらに言うなら、保守派の論客ロバート・ケーガンが秀逸な著作『Rebellion(反乱)』で論じているように、この危険は決して新しいものではない。

 ケーガンが筆者とともに出演したポッドキャスト番組で説明したように、米国という共和政体には自由主義の思想が建国当初から攻撃されてきた歴史がある。

 南北戦争はその最たるものだった。

 だが、トランプには指導者としてのカリスマ性があるため、今回は特に危険な事態となっている。

 ルビコン川が渡られたのは2020年と2021年、トランプが大統領選挙での敗北を受け入れなかったばかりか、選挙結果を覆そうとした時のことだった。

 その企ては失敗したものの、今では共和党が、敗北を受け入れない姿勢を全面的に支持している。

 筆者が以前指摘したように、支持者にとって何が真実であるかをトランプが決められることは、「Führerprinzip(指導者原理)」――何が真実であるかを判定するのは指導者だという、かつてナチスが唱えた思想――の一例だ。

 あれは盗まれた選挙だったという主張を、嘘だと言って否定した共和党員は排除された。党の逸脱を防ぐはずだったガードレールはすべて機能しなかった。

 今やトランプは共和党の大統領指名候補になるとみられており、本選挙で再選を果たす可能性がかなり高い。