フランスを訪問し、マクロン大統領からピレネー山脈の景勝地を案内された中国の習近平国家主席(5月7日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

1.米国EUがともに中国の過剰生産を問題視

 中国企業による過剰生産に対する批判が強まっている。

 米国のジャネット・イエレン財務長官が4月に訪中した際に中国に対して過剰生産問題に対する懸念を伝えた。

 中国の習近平主席が5月にパリを訪問した際には、エマニュエル・マクロン仏大統領はウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長を同席させて3者会談を実施し、そこでも主要課題としてEV(電気自動車)や太陽光パネルの生産過剰問題が取り上げられた。

 その原因は中国政府の補助金によるものだとの批判である。

 これに対して習近平主席は、中国は世界の環境改善やインフレ抑制に貢献しており、中国の過剰生産能力問題は存在しないと回答した。

 欧州ではこの会談はすれ違いに終わったと受け止められており、その結果として、欧州委員会は6月12日に中国製EVに対する追加関税引き上げ幅を最大38.1%とする方針を発表した。

 ドイツのオラフ・ショルツ首相は関税引き上げを回避しようと交渉したが、その努力は報われなかった。

 習近平主席にとってもこの結果は予想以上に厳しいものだったと推察される。

 今回の訪欧直前の4月中旬に、北京でショルツ首相と主要自動車メーカー代表と会見した際には、ドイツ企業の対中投資積極姿勢を聞かされていたからである。

 それを踏まえて欧州に来てみたところ、この厳しい結果が待っていた。

 ドイツの主要自動車メーカーは中国市場で高いシェアを保持していることから、中国ビジネスにマイナスの影響が及ぶことを懸念して、今回の制裁措置に対しては反対の意向を表明している。

 ドイツにおける自動車産業は国家の基幹産業であり、関連業界のすそ野も広く、ドイツ政府の政策運営に対して強い影響力を持っている。

 ただし、すでに欧州委員会から発表された方針を撤回させるためには、各国の元首または政府の長などから構成される理事会において、加盟国の人口を考慮し加重投票を行う多数決(qualified majority)によって否決する必要がある。

 このため、ドイツなど一部の国が反対しても、過半数を得るのは難しいと予想されており、年内にはこの制裁措置が発効する可能性が高いと見られている。