連邦最高裁の違憲判決を受け、全世界に新たな関税を課すと表明したトランプ大統領(2月20日、写真:ロイター/アフロ)
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(英エコノミスト誌 2026年2月28日号)

関税をめぐる争いはトランプ政権の任期中のみならず、その後も続く。

 歴史的な瞬間だった。米国の連邦最高裁判所は2月20日、ドナルド・トランプ大統領の看板政策を取り消した。

 大統領は、いかなる関税をいかなる国にも、いかなる期間に渡っても課す権限を1977年国際緊急経済権限法(IEEPA)により付与されていると主張していた。

 最高裁判事は6対3の多数意見でこれを否定し、ジョン・ロバーツ最高裁長官が多数意見で述べたように、議会はIEEPAにおいて「議会が本来有する課税の権限を『規制』を行う通常の権限に含めて(大統領に)委任」したわけではないと判断した。

 関税率の変化だけを見ていたら、後世の通商史家はこの判決を丸ごと見落とすかもしれない。

 トランプ氏は判決から数時間しか経たないうちに、1974年通商法122条を根拠にすべての輸入品に一律10%の関税を150日間課すと発表した。

 翌日には、税率を同法で認められる最高限度の15%に引き上げる考えを表明した。

 エール大学予算研究所の推計によれば、最高裁判決前の米国の実効関税率は13.7%だった。IEEPAによる関税が通商法122条に基づく15%の関税と置き換えられれば、実効関税率は若干下がって12.2%になる(図1参照)。

 ちなみに、トランプ氏が2025年1月に大統領に再度就任する前の実効関税率は2~3%だった。

図1

「解放の日」をも上回る混乱期の到来

 しかし、後世の通商史家がこの一見安定した表面を掘り起こすことになったら、その時はこの2月20日を新たな混乱期の幕開けと見なすことだろう。

 ひょっとしたらその混乱の度合いは、トランプ氏が昨年4月の「解放の日」にもたらしたものを上回るかもしれない。

 その理由は2つある。一つは、米政府が違法に徴収した税金の還付をどうするかについて最高裁が何も語らず、おかげで新たな訴訟合戦が起きることになるからだ。

 もう一つは、トランプ氏が主張している――あるいはまさに主張しようとしている――最新の権限の是非も法廷で争われることだ。

 裁判が続く間は不確実性が残り、すべての貿易戦争の挑発行為が経済の足を引っ張り続けることになる。

 米政府が徴収したIEEPA関税は1800億ドルに上っている可能性がある。

 また、最高裁がIEEPA関税を違法だと判断した時に還付を受ける権利を守るための訴訟も、ここ1年で1800社――タイヤ製造のグッドイヤーや、小売のコストコなど――が起こしていた。

 今回の判決により、これらの企業は徴収された金額の返還を求める。

 1800億ドルといえば、米国企業が昨年計上した利益のざっと5%、あるいは国内総生産(GDP)の0.6%に相当する金額だ。おまけに、年利6~7%の利息が1日複利で付く。

 請求額がこうして増えていくにもかかわらず、トランプ政権が還付請求者を楽にしてくれることはない。

 もう消費者に転嫁してしまったからとの理由で還付請求を断念せざるを得ない企業が出てくることを期待しているのかもしれない。

 大手金融機関ゴールドマン・サックスでは、昨年末までに関税コストの約60%が値上げを通じて買い手に転嫁されたと推計している。

 また、大統領が実業界や法曹界などで自分の敵と見なす人物や組織を政権の権限を使って追いかけ回したことを踏まえ、大統領を怒らせない方がいいと判断する向きもあるかもしれない。