国税庁に求められる対応
国税庁がAIを活用して税務行政の効率化を図ること自体は、時代の流れとして理解できる。しかし、その運用に当たっては、少なくとも次の二点について、曖昧さを残さず正面から向き合う必要がある。
第一に、AIの開発および利用に関する説明責任を、国民に対して果たすことである。
最新のテクノロジーを税務行政に活用する試みそのものには、基本的に賛同できる。しかし、AI活用の利点のみを強調し、本稿で見てきたような、起こり得る法的・制度的問題点についてほとんど触れない国税庁の説明姿勢を見ると、不安を覚えざるを得ない。
政府はAIの利活用に関して、透明性、公平性、説明可能性などの原則を掲げている。国税庁もまた、これらの原則をどのように税務行政の現場に落とし込んでいるのか、プライバシーやセキュリティの問題を含め、具体的な対応策を国民に対して説明すべきであろう。
第二に、AIへの過度な依存が、調査官の自律性や専門性を損なうおそれがある点を、正面から直視すべきである。
自らの目と頭で調査選定を行ってきたベテラン調査官が減少していく中で、AIの示す結果に盲目的に従う、いわば「自律性を失った旧型ロボット」のような調査官が、生身の人間である納税者に向き合う未来が、現実味を帯びつつある。
国税庁は、職員に対してデータリテラシーチェックを実施し、不足するスキルを補うための研修を実施しているようである。しかし、それだけで十分とは言い難い。AIを「使いこなす」以前に、AIの判断を疑い、修正し、最終的な判断について自ら責任を負える人材を育成することが不可欠である。
また、ベテラン調査官が退職する前に、彼らが長年にわたって培ってきた知見や経験を、単なるマニュアルとしてではなく、思考様式や判断の勘所として、生身の若手調査官に継承する仕組みを構築する必要があるだろう。
AIの導入が国民に広く受け入れられるものとなるのか、そして人間の調査能力を適切に補完する方向に機能するのか、それとも結果として国税庁の組織そのものを空洞化し、弱体化させてしまうのかは、国税庁がこれからどのようにAIと向き合うかにかかっている。


