WBCに出場するメジャー40人枠の選手は、全員がMLBと選手会が合意した保険会社の審査を受ける。過去の負傷歴や手術歴を理由に「保険適用不可」と判断された場合、WBC期間中に負ったけがによって欠場した日数について、球団側が年俸を補償する義務は生じない。つまり、保険が認可されない限り、球団は高額年俸のリスクをそのまま背負うことになる。

 実際、前回大会でも、クレイトン・カーショー(ドジャース=2025年シーズンをもって現役引退、今春の第6回WBCは米国代表として出場予定)やミゲル・カブレラ(当時デトロイト・タイガース=現引退)が、同様の理由で保険適用外と判断されていた。WBCは国際大会であると同時にMLBの統治下に置かれたイベントでもあり、各球団の資産管理という現実から避けられず決して「自由」ではない。

昨季躍動した山本由伸にも当然ありえる「保険による制限」

 こうした構造を踏まえれば、今回の登板回避は単なる個人のコンディション判断にとどまらない。保険という「見えない前提条件」が、選択肢の幅を大きく狭めていた可能性は否定できない。

 そして、この問題は大谷に限った話ではない。同じ保険の枠組みが侍ジャパンのもう一人の柱、山本をも静かに縛り始めている。

 山本は昨季、レギュラーシーズンを「完走」した。先発ローテーションの中心として一定の登板間隔を守り、チーム事情による無理の利く起用にも耐えた。さらにポストシーズンでは、短期決戦特有の継投と先発再配置の波にもさらされた。投げるたびに負けられない場面が続き、投球回の積み上げが今もそのまま“疲労の蓄積”として残っている。

ドジャース・山本由伸の登板にも制限がある可能性が…(写真:共同通信社)

 極めつきはワールドシリーズだった。シリーズが持つ熱量と重圧は、地区シリーズやリーグ優勝決定シリーズとは性質が異なる。ひとたび流れが傾けば、修正の時間はほとんど与えられない。投手陣が崩れれば、打線の勢いも萎む。守備の一つのミスが、球場の空気ごと相手に渡る。

 そんな極限の舞台で、山本はフル回転を求められた。結果として日本人2人目のワールドシリーズMVPに輝き、チームを世界一連覇へと導いたが、その“見えない代償”も少なくなかったはずだ。