企業経営理念の日米比較
米国でトランプ大統領が登場した背景にもこうした問題が関係している。
トランプ大統領が憲法違反を犯し、移民排除や政府機関閉鎖において非人道的な政策を実施し、大学の研究予算と人員を大幅に削減し、メディア報道を弾圧しても全米選挙民の4割前後を占める岩盤支持層による強固な支持は揺らいでいない。
それが米国社会の分断をもたらしている。
その背景には1980年代以来エスタブリッシュメント(エリート層)が米国の中間層や低所得層の生活苦を知りながら、それを改善するために必要な政策を実施せず、エリート層だけが豊かになり、貧富の格差が拡大したことへの庶民の怒りがある。
それを助長した一つの要因は株主第一主義であると指摘されている。
企業の利益は株主と経営上層部に厚く配分され、従業員の給与は低く、サプライヤーは買いたたかれ、顧客は高い値段で買わされ、地域社会は外部不経済を押し付けられる。
その問題が米国社会の分断を引き起こしていることに気づいた経営者たちは2019年に、企業経営理念の重点を株主第一主義からステークホールダー重視に転換した。
ステークホールダーとは、従業員、サプライヤー、顧客、地域社会、株主のすべてを含む。
しかし、それから6年以上が経過したにもかかわらず、依然として米国企業においてそれを実践している企業はほとんどないと評価されている。
こうした自社収益最優先の企業経営の基本姿勢や貧富の格差の拡大は中国においても広く見られている。
一方、多くの日本企業の経営においては、「三方よし」という理念が重視されている。「売り手よし、買い手よし、世間よし」という近江商人の伝統精神である。
米国では、企業の経営状態が悪化すると不採算部門を切り捨てるために従業員をレイオフするケースが多い。
日本では従業員を解雇する前に社長以下役員の給与を減らし、様々なコスト削減努力を実行し、それでも経営が改善しない場合には、最後の手段として雇用を削減する。
その場合には経営者自身が身を引く形で責任を取ることが多い。
こうした経営者の姿勢に「三方よし」の精神、言い換えれば、ステークホールダー重視の姿勢が示されている。これが正しい心を持つリーダーの実践例である。
日本企業のこうした経営理念の実践の積み重ねの結果、日本では米国や中国に見られるような貧富の格差の拡大が生じていないため、一般庶民のエリート層に対する強い不満の蓄積、それが引き起こす社会の不安定化といった社会現象が見られていない。
このため、日本は社会が安定し、米国、欧州等に比べて政治も比較的安定している。
日本におけるモラル教育の課題
しかし、日本でも問題はある。
学校経営の実態を見れば、不登校の児童が増え、学級崩壊も深刻化している。小中学校合計での不登校の児童数は2014年の12.3万人から2024年の35.4万人に急増している。
その主な原因の一つはいじめにあると言われている。
学級崩壊件数については全国ベースの統計が存在しないが、公立小中学校では正常な授業ができない学級が増加しているため、私立小中学校を選ぶ子供の割合が長期的に増え続けている。
こうした問題に詳しい専門家によれば、不登校や学級崩壊を食い止める根本的な対策は学校教育においてモラル教育を重視し、子供たちの人格形成に力を入れることである。
人格形成教育によって子供たちの心が安定すれば、学級も落ち着き、子供同士の関係も融和し、教育環境が改善する。
そのためには、人格形成を促すモラル教育を指導できる教師の人材確保が必要である。
モラル教育のためには偉人伝を読むという方法がある。例えば、日本と世界の様々な偉人伝や内村鑑三の「代表的日本人」、西郷隆盛の「西郷南洲遺訓」などは好適書であろう。
また、江戸時代に子供たちの人格形成教育の土台となっていた「小学」、「大学」、「中庸」、「論語」といった、代表的中国古典の活用も有効である。
人格形成を促す教師の人材確保のために必要な施策は、大学の教職課程の習得必要科目の中でモラル教育を重視することである。それには大学においてモラル教育を教える指導者の育成も必要になる。
このように日本のモラル教育改善のためには、教育指導者の育成システムを根本的に見直していく必要がある。
こうした努力を通じて子供たちの人格が向上すれば、10~20年後には社会の第一線の研究開発、新製品開発、各種業務運営など多岐にわたる分野において大きな成果が生まれることが期待される。