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 第2次トランプ政権のもとで、AIを巡る動きが目立っています。株式市場ではAI関連銘柄が全体を押し上げるなか、巨大テック企業のトップやテックエリートらとトランプ政権との距離が近づいています。苛烈な移民取り締まりには、米国が「ナチ化」しているとの批判もあります。

 AIが急速に普及するなか、雇用や産業構造にどのような影響を及ぼすのか。テックエリートらは何を考え、AI時代の米国はどこへ向かうのか。長年アメリカに暮らし、社会や文化を見続けてきた映画評論家の町山智浩氏に、ドイツ出身で日本を拠点に活動するマライ・メントライン氏が話を聞きました。全3回でお届けします。

※JBpressのYouTube番組「マライ・メントラインの世界はどうなる」での対談内容の一部を書き起こしたものです。詳細はYouTubeでご覧ください。

(収録日:2025年12月19日)

米テックがトランプに近づく理由

マライ・メントライン氏(以下、敬称略):米大手テック企業の経営者らがトランプ大統領寄りの姿勢を示しているように見えますが、現地ではどう受け止められていますか。

町山智浩氏(以下、敬称略):背景にあるのが「AI化」です。米国の株式市場は好調に見えますが、実態としては半導体を含むAI関連銘柄が市場全体を押し上げており、「AIバブル」の様相を呈しています。

 トランプはAIを規制しない方針を明確にしており、テック企業の経営者やテック右翼らは、トランプを支持していればAI規制を回避できると考えています。

 実際、最近もトランプは州ごとのAI規制を制限する大統領令に署名しました。ただし、連邦法が扱えるのは人権や差別といった、連邦を維持するために必要な事項に限られます。AI規制を一律に制限することは、州の自治権を侵害する憲法違反に当たる可能性が高いと見られています。

 こうした中、トランプ政権のうちにAIを一気に拡大できると見たテック企業が、いわゆる「バンドワゴン効果」で政権周辺に集結しています。アマゾンやメタ、グーグルなどの巨大テック企業は、トランプ政権のうちに「AI帝国」を築こうとしている構図です。

マライ:なぜそこまでしてAIを拡大しようとするのですか。

町山:理由の1つに、「人を雇わずに済むこと」が挙げられるでしょう。古代ローマの時代から現代に至るまで、社会は常に支配層と労働層で成り立ってきましたが、AIとロボット技術が進化すれば、マルクスが言っていた「下部構造」、人間の労働力そのものを不要にできると彼らは考えています。

 すでに米国では大規模な失業が始まっており、「AI不況」とも呼ばれる状況が生まれています。特にテック業界ではレイオフが相次ぎ、かつて花形とされたプログラマーもAIの急速な進化によって需要が減っています。

 現状でAI不況の影響を受けているのはITやテック分野の「ホワイトカラー」ですが、ロボット化がさらに進めば、「ブルーカラー」にも大量解雇が広がる可能性があります。多くの人々にとっては深刻な社会問題ですが、人件費を削減し、労働者との交渉や反発を気にせずに済む経営者や資本家にとっては、「天国」とも言える世界なのでしょう。