NSSの地域優先順位転換受けたNDSの方向性

 米国議会調査局が「国家防衛戦略:西半球と中国を優先することによる国防省への潜在的な影響」(2025.12.18付)とのテーマで議会用に準備した報告文書には、NSSの地域的な優先順位の転換・再設定を受け、NDSにおける次のような潜在的影響・変化の可能性が述べられている。

米軍の再配置

・欧州および中東に駐留する軍事要員および装備(事前配備備蓄を含む)を削減し、西半球および/またはインド太平洋地域における要員および装備を増強する。(交代制軍事施設への)ローテーション展開を削減または再配分する。

・地域別戦闘司令部(インド太平洋軍や欧州軍など)は、組織、態勢、計画、プレゼンス、および安全保障協力活動を変更する。

 欧州または中東における兵力削減は、部隊を米国本土へ帰還させることを意味する場合がある。

 その場合、これらの部隊を米国内に駐留させるには、追加の基地施設を建設するための時間と資金が必要になる。

国土防衛のための兵器調達

・「ゴールデン・ドーム・フォー・アメリカ」ミサイル防衛システム、米国への海空からの接近を監視・防衛する能力、米国への麻薬密売や不法移民に対抗する他の米国機関を支援する能力など、国土防衛プログラムを重視する。

中国に対する「軍事的優位」のための兵器調達

・欧州での抑止よりもインド太平洋地域での抑止に適した兵器の調達を優先する。例えば、

①中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)システムの射程外で効果的に運用できる長距離の有人・無人の航空機および兵器

②中国のA2/AD(接近阻止・領域拒否)システムの範囲内で効果的に運用できるプラットフォーム(例:潜水艦)

③欧州の拠点よりも米国から遠い西太平洋の米軍戦闘部隊を支援するための長距離物流能力(空輸および海上輸送を含む)

④インド太平洋や西半球よりもヨーロッパでの紛争に関係のある装甲戦闘車両、砲兵、その他の陸上システムの開発と調達への取組みの軽視

施設と拠点

・米国の州および準州、同盟国、パートナー国を含む西半球およびインド太平洋地域において、軍事基地、補給拠点、修理施設の新設、再開、改善のため、軍事建設に投資する場合がある。

 他方、前掲文書は、指摘する影響や変化の可能性の一部については、第2次トランプ政権下においても、またそれ以前の政権下においても、既に始まっていたと指摘している。例えば、

・海軍は2006年から、保有艦艇の大部分を大西洋艦隊から太平洋艦隊に移管し始めた。

・空軍は、より高性能で戦闘仕様の戦闘機部隊を太平洋に段階的に配備しており、今後もこれを継続する予定である。一部の航空機には空中発射型対艦ミサイルが搭載されている。

 また、2004年以降、爆撃機をグアムなどの地域にローテーションで配備している。

・陸軍と海兵隊は2019年に陸上配備型対艦ミサイルの配備に向けた取り組みを開始し、陸軍は陸上配備型極超音速ミサイルの開発に着手した。

・国防省は、オバマ政権下でインド太平洋地域へのインフラ投資を増やし始め、 2025年にはカリブ海の基地を再開・改修する予定だと報じられている。

 また、歴代政権は、特定地域(中東など)における米軍のプレゼンスと作戦の縮小を目標としてきたが、第2次トランプ政権も、例えば、NATO(北大西洋条約機構)に対する米国の条約上の義務が、政権が最終目標とする欧州におけるプレゼンスの縮小という選択肢を制約する可能性があるとも述べている。

 以上の内容は、前掲報告文書に記載されたNDSの方向性に関する潜在的影響・変化のあくまで可能性であり、併せて歴代政権からの政策の継続性や計画が予定通り進展しない場合についても言及している。