東アジアは「世界で最も危険な地域」

我が国は第1列島線国の防衛努力の結集に注力せよ

 トランプ大統領のアジア歴訪に並行してヘグセス国防長官も10月下旬から、米国ハワイを経由して日本、マレーシア、ベトナム、韓国を歴訪した。

 訪問に当たり、ヘグセス長官はインド太平洋地域での対話を通じ「力による平和と地域の勢力均衡に対する米国の関与を再確認する」と説明した。

 そして、まずハワイのインド太平洋軍司令部では米軍の戦闘態勢を確認し、訪問各国では防衛費の増額や連携強化などを中心に協議した。

 日本では、「増大する地域の脅威に対する急速な同盟強化の重要性」が主な議題となり、小泉進次郎防衛相は、先手を打って防衛力強化を前倒しする方針を説明した。

 マレーシアではASEAN(東南アジア諸国連合)拡大国防相会議に参加し、同国と安全保障協力の連携強化で一致した。

 ベトナムでは、中国を念頭に防衛貿易(防衛装備品の移転)や情報共有など防衛協力の深化が焦点となった。

 韓国では、定例安保協議(SCM)が行われ、ヘグセス長官は原子力潜水艦導入を積極的に支援する考えを示した。

 また、在韓米軍が東アジアなどでより幅広い事態に対処できるよう「戦略的柔軟性」を向上させる必要性を説いた。

 トランプ大統領のアジア歴訪は、関税政策を重要な外交手段として活用し、米国の経済的利益を最優先するという経済重視の姿勢が特徴であった。

 他方、 ヘグセス長官のそれは、就任後初の訪問であるにもかかわらず至って実務的な性格を帯びていた。

 米軍は、自国から展開し、広大な海空域を横断し、ユーラシアやユーラシアを囲む海空域に到着後、持続的で大規模な軍事作戦を実行できるような戦力要素で構成された世界唯一の軍隊である。

 その米軍が、地域における大量移民や麻薬密売などを阻止する、いわば治安対策とみられる西半球の脅威をNDSの主題とするとは常識的には考え難い。

 2025NSSでは「地域紛争が大陸全体を巻き込む世界戦争へと発展する前に阻止すること」を優先事項とし、「同盟国やパートナーと協力して、世界および地域の勢力均衡を維持し、支配的な敵対国(中国)の出現を防ぐ」(括弧は筆者)と述べている。

 このように、米国のNDSの最大の課題は、あくまで対中国であり、北朝鮮の核開発や中露北朝鮮が同調・連携する現状を踏まえれば、インド太平洋、とりわけ東アジアは「世界で最も危険な地域」といって過言ではない。

 他方、2025NSSにおいて、米国は「第1列島線のいかなる場所においても侵略を阻止できる軍隊を構築する。しかし、米軍はこれを単独で行うことはできず、またそうすべきでもない。同盟国は集団防衛のために積極的に支出し、そしてさらに重要なことに、より多くのことを実行しなければならない」と強調した。

 中国の台頭などによる相対的な国力低下を踏まえ、米国が近年、同盟国・友好国に相互主義あるいは互恵主義による防衛分担、役割分担を強く求めるようになったのは止むを得ない趨勢である。

 それでも、中国が最も恐れるのは、言うまでもなく「米軍の介入」であり、その蓋然性が最大の抑止の役割を果たす。

 つまり、本地域で危機の最前線に立たされている日本や韓国、台湾、フィリピンなど第1列島線国の防衛の第一責任は当事国にほかならないが、同時に米国による防衛協力・支援の枠組みは必要不可欠である。

 我が国は、東アジアの中心国として、日米同盟を基軸とし、日米豪印(クアッド)の協力などを支えに、日米韓、日米台、そして日米比の防衛協力の枠組みを整え、それを連接して第1列島線当事国の防衛努力を結集する、そのネットワーク化の構築・強化に主導的役割を果たす覚悟がいよいよ求められている。