ヘグセス長官の暫定「国家防衛戦略」指針
ヘグセス国防長官は、NSSの発表に先立つ今年3月、暫定「国家防衛戦略(NDS)」の指針を公表した。その要点は、次の通りである。
戦略環境に対する認識
中国・ロシアとの「大国間競争」「戦略的競争」が激化し、「ならず者国家」のイランおよび北朝鮮が両大国と同調する構図
国家防衛の方針
■中国との包括的戦略的競争が中核的優先事項
・「中国による台湾占拠の抑止」と「米国本土防衛の強化」を焦点とした「対中抑止の再確立」
・台湾の国防力強化を支援
・日本、オーストラリア、フィリピン、韓国、タイなどの同盟国やインドやベトナムなどの友好国との協力連携や役割分担の増大
■ロシアからの脅威には主に欧州の同盟国が関与
この暫定NDSと2025NSSを比較すると、基本的な方向性については、当然ながら決定的な相違はない。
その中で、大きな変化と言えるものは、まず、2025NSSは超大国である中ロ両国とのイデオロギーの違いを重視しない方針とみられ、中国への対抗姿勢を和らげ、ロシアとの「大国間競争」「戦略的競争」を等閑視している。
また、2025NSSが中国と同等に、あるいはそれ以上に西半球・米国本土防衛を重視しているように見える。
さらに、暫定NDSが中国との包括的戦略的競争を中核的優先事項としているのに比し、2025NSSでは「包括的」の中でも「経済の再均衡」を前面に押し出している点である。
トランプ大統領のウクライナ戦争への取組みでは、「『戦争ではなく金儲けを』トランプ氏の真の和平案」(ウォール・ストリート・ジャーナル、2025.12.2付)と疑いの目を向けられている。
対中戦略においても安全保障より経済が重視され、例えば台湾問題がディールの対象になるのではないかとの懸念も指摘されている。
果たして、これらの変化がNDSにどのような影響を及ぼし、反映されるのか、大いに注目されるところである。