米国がベネズエラ沖でタンカーを拿捕
市場はベネズエラ産原油の供給が減少する事態も想定し始めている。
トランプ米大統領が10日「ベネズエラ沖で米国が石油タンカーを拿捕した」と発表したからだ。米国政府はこれまでベネズエラ周辺に空母打撃群などを派遣するなど、反米のマドウロ政権に圧力を強めてきたが、ベネズエラ近海でタンカーを実力で制圧・拿捕する形の介入は極めて異例だ。米国側は拿捕したタンカーの詳細を明らかにしていないが、各種報道によると最後に停泊したのはベネズエラだったようだ。
今回の事案により、海運企業がベネズエラの原油積み込みに一段と慎重になるとみられるため、同国の原油輸出は一層困難になるだろう。
このように、地政学リスクによる供給途絶の懸念は依然として根強いが、「原油の需給が緩む状態が続く」の認識が相場の重荷となっている。
国際エネルギー機関(IEA)は11日に発表した月報で、世界の原油市場における供給過剰見通しを5月以降で初めて下方修正した。それによれば、来年の供給過剰の規模は日量384万バレルと11月の予測から同25万バレル縮小する。下方修正したものの、過去最高の水準に変わりはない。
資源商社大手トラフィギュラも「世界の原油市場は“超過剰”供給の状態に陥りかねない」と警告しており、業界の評価もIEAと同じだ。
これに対し、OPEC(石油輸出国機構)は11日に発表した月報で「世界の原油需要は来年も堅調であり、原油市場は均衡を保つ」との強気の見通しを堅持した。だが、市場はこれに反応しなかった。
筆者は、米国のガソリン価格(平均)が12月に入り、1ガロン=2.9ドルを割り込み、2021年5月以来の安値となっていることに注目している。米国の原油需要が弱含む兆しだからだ。米国の原油需要の約半分を占めるガソリン需要の不調が続けば、来年以降、原油価格が50ドル割れするのは確実だろう。
原油安は日本にとって望ましいが、「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」。今後の動向について引き続き高い関心を持って注視すべきだ。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。