日本企業はどう対応すべきか
さて、ここから日本企業への視点に移りましょう。
結論から言えば、現時点ではGPUが無難であり、最も広範なエコシステムが利用できます。
ほぼすべてのAIモデルがGPUで動くことを前提に設計されており、日本の技術者もGPUベースのスキルを持っています。
生成AIを導入するという段階では、GPUを選べば失敗は少ないでしょう。しかし、これからはTPU併用が重要なテーマになります。
特に日本は世界でも電力コストが高い国であり、AIを本格運用するほど電力負担が経営を圧迫する現実があるでしょう。
もしTPUの電力効率がGPUを大きく上回る状況が来れば、日本こそTPUが最も大きな経済効果をもたらす国の一つになる可能性があります。
製造業の品質検査、金融機関のリスク解析、医療画像の自動診断など、AI処理を大量に行う産業こそTPUの恩恵を受けやすいからです。
もちろん医療分野では専門家の見解が不可欠ですが、インフラとしての効率性の議論は経営者にとって避けて通れません。
AI半導体の選択は、もはや技術部門だけの判断ではありません。企業がどのAIプラットフォームに参加するかを決める、経営レベルの意思決定です。
GPUは柔軟性と自由市場の象徴になりました。TPUは効率性とグーグル中心の標準化の象徴です。
そのどちらを基盤に選び、どちらに重心を置くのかで企業の未来が変わります。
前回も述べたOpenAIのサム・アルトマンCEO(最高経営責任者)がコードレッドを発令した理由はここにあるのです。
グーグルとMetaがTPU陣営を形成すれば、OpenAIとNVIDIAが握ってきたゲームのルールが変わります。GPU中心の世界が揺らげば、OpenAIの強みそのものが再設計を迫られるのです。
私はこの動きを見て、IT業界が新しい大陸へ向かう船出を始めたような印象をもっています。
かつてのインターネット黎明期、クラウド革命、スマートフォンの勃興。そのいずれよりも、このAIインフラ戦争は深いところで文明を動かしているように感じます。
これからの数年で、AI半導体の選択はますます重くなっていきます。GPUが勝つかTPUが勝つかではなく、どのような形で共存し、どのシステムが人類の知能基盤になるのか。
日本企業はその大きな波の中で、どの航路を選ぶのかを真剣に考える必要があります。
少し大げさですが、これは産業戦略を超えて未来の社会設計に関わるテーマです。