アンドロイドでスマホの覇権、次はAI

 TPUを導入すれば学習コストと消費電力を劇的に下げられる可能性があります。これは単なるチップの比較ではなく、企業の収益構造を左右する判断です。

 AIサービスの価値はモデルの精度や機能だけで決まるのではなく、それを支える学習コストがビジネスの採算ラインを決めます。

 Metaは次世代モデルの競争を勝ち抜くための新たな土台を求めているのです。

 このMetaの動きが、OpenAIのサム・アルトマンCEO(最高経営責任者)をしてコードレッドの判断に踏み切らせました

 OpenAIの帝国はGPUを基盤として築かれてきたのです。

 もし世界がGPUとTPUに二分され、さらにTPU陣営が巨大なクラウド連合に成長すれば、GPUは相対的に供給が緩和し、価格も力学も変わります。

 つまり、NVIDIAが握ってきた支配力が弱まるのです。

 これはOpenAIにとって、モデル開発の前提そのものを揺るがす事態になりかねません。

 GPUの安定供給を確保することが、OpenAIにとって国家的課題に近い意味を持ち始めたのです。

 グーグルはこの機会を逃しません。AI半導体のディファクトスタンダード(事実上の標準)化ともいえる戦略を推し進めています。

 過去にアンドロイド(Android)でスマホOSの主導権を握ったのと同じように、データセンターの世界でTPUを浸透させれば、AI計算規格そのものがグーグル主導の形で固定化されるでしょう。

 MetaがTPUを採用すれば、グーグルはライバル陣営の内部に自分の標準を送り込むことになります。

 これは技術戦略というより、地政学に近い感覚です。支配ではなく影響力の浸透。まさに静かなる包囲網です。