脳裏に浮かぶネットスケープの二の舞

 この構造変化を目の当たりにすると、アルトマン氏がコードレッドに踏み切った理由がより鮮明になります。

 AIは単なるツールではなく、経営インフラの中枢へと進出してきました。電力や通信が経済を支えたように、AIが意思決定を支える時代が始まりつつある。

 OpenAIもグーグルも、そしてマイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、メタ(Meta)といった巨大企業も、この新しいインフラの覇権を巡って多層的な競争を展開しています。

 これらの複数の領域が 同時にAI化し、互いに結びつきながら 新しい産業構造を形成しつつあります。

 いま起きているのは、単なる技術革新ではなく、検索、広告、OS(基本ソフト)、クラウド、エンタープライズソフト、消費者向けアプリなどが、AIという一つの軸で再編される大転換です。

 その中心に立つOpenAIは、もはや従来の「研究主導型企業」という立場のままではいられなくなりました。

 世界の企業や政府、そして数億規模のユーザーを巻き込む競争構造の中で、自らの進路を根本から再定義せざるを得ない局面に来ているのです。

 サム・アルトマン氏が「コードレッド」を発令した背景には、この構造変化に対する強い危機感がありました。

 私はこの状況を見て、どうしても インターネット黎明期にネットスケープ(Netscape)が登場したときの情景を思い出さずにはいられません。

 1994年、「Netscape Navigator」がリリースされ、インターネットは研究テーマから一気に「現実の産業」へと飛躍しました。

 あの瞬間、情報の世界は劇的に変わったのです。

 その後、マイクロソフトが「インターネットエクスプローラー」を「ウィンドウズ」にバンドルして提供し、市場のルールを一気に書き換えたことも想起されます。

 ネットスケープは当時「コードレッド」を発令し、危機に対応しようとしましたが、結果的に主役の座から引きずり下ろされたのです。

 この歴史は、競争のルールが変わる瞬間には、企業がどれだけ迅速に舵を切れるかが運命を左右することを教えてくれます。

 そして今、同じ種類の変化がAIの世界で起きているのです。

 サム・アルトマン氏の「コードレッド」が象徴したのは、単なる機能競争の激化ではありません。

 対応が遅れれば、ネットスケープが辿った道を歩む可能性があります。