競争の土俵自体が変わってしまった

 この動きを受け、OpenAIが危機感を抱いたことは疑いようがありません。ただし、外部から見えるのは結果としての「コードレッド発令」という事実だけであり、内部でどのような議論が行われたかは分かりません。

 しかしコードレッドという選択そのものが、彼らがこれを「性能競争の一つのエピソード」ではなく「競争土俵の崩壊」と捉えたことを端的に示しています。

 AIモデルの精度を競う時代から、世界の意思決定インフラをどの企業が握るかを争う時代へ――。

 その境界線が、2025年のこの瞬間に越えられてしまったのです。

 長くITの世界に身を置いてきた私は、こうした転換点には独特の空気があることを経験しています。

 それは派手な爆発音が聞こえるのではなく、むしろ「静かな揺れ」としてやって来ます。

 顕在的な混乱よりも、気づいたときには立っている足場が変わっているような感覚に近いのです。

 今回のAI競争はまさにその典型であり、表面上は技術発表の一つに見えながらも、底流では産業構造全体を揺さぶる波が進行していたわけです。

 2024年以降、企業の意思決定プロセスには急速にAIが組み込まれ始めました。

 米国企業の取締役会では、市場分析、競合比較、リスク算定をAIに即時生成させる文化が定着しつつあります。

 以前なら数週間かけて作成された資料が、数十秒で提示されるようになりました。

 議論が停滞しそうになるとAIが代替案を出し、意思決定の速度が飛躍的に向上します。

 こうした変化が積み重なり、経営のあり方そのものが書き換わりつつあるのが現状です。