東大ガチャで実現した知と遊びのハイブリッド
もう一つ、企画のアクセントとして重要な役割を果たしているのが、東大運動会の公式マスコット「イチ公」です。柔らかく親しみやすい見た目で、実は構内の売店ではぬいぐるみも販売されている人気者です。
「硬いイメージのあるかもしれない東京大学を、少しでも身近に感じてもらえるように」との森田さんの想いからラインナップに加わりましたが、実際の資料が少なかったため、造形にはかなり苦労されたとのこと。写真から立体を起こし、何度も修正を重ねたそうです。
シークレットアイテムとして封入された“開いた赤門”は、現在改装工事のため閉鎖中の実物が、150周年の年にあわせて再び開くという未来構想をモチーフにしています。
「これは東京大学さんからの強いリクエストでもありました。未来に向けて開く知の門を、ガチャの中でも象徴的に表現したいと考えました」と語ってくれました。
今回のガチャには、各フィギュアの背景を解説したミニパンフレットが同封されています。東大の建物や歴史をさらに深く知ることができるようになっています。
「ただ面白いだけじゃなくて、ガチャをきっかけに、東大の建築や歴史に興味を持ってもらえたら嬉しいですね」と森田さんは笑顔で語っていました。
先行販売は東京大学の「ホームカミングデイ」というイベントで行われましたが、設置された筐体は数時間で完売。1回引いたら並び直しが必要という注意書きが貼られるほど、熱狂的な反響があったそうです。
森田さんが一貫して大切にしているのは、常にガチャで新しいことに限界まで挑戦すること。「開けた瞬間にお客様をがっかりさせたくありません。『おっ!』と思ってもらえる驚きと、そこからもう一歩先に進むような知的な感動を提供したいです」(森田さん)。
今回、「東京大学-ガチャコレクション-」ではそれが見事に形になりました。歴史ある大学と、カルチャーとして成熟したガチャ文化が出会ったことで生まれた、まさに知と遊びのハイブリッドです。
「将来、ミニチュアを持って実際の安田講堂の前で写真を撮ったり、フィギュアをきっかけに本物を見に行く人が増えたりすれば本当にうれしいです」と話してくれた森田さん。カプセルの中に詰められたのは、精巧なフィギュアだけでなく、150年の歴史と未来、そしてガチャの新たな可能性そのものだったのかもしれません。
※ガチャはタカラトミーアーツの登録商標です。
尾松洋明 (おまつ・ひろあき)
ガチャガチャ評論家、ライター。ガチャガチャ市場や歴史、商品情報などについて、テレビをはじめ、ラジオ、雑誌などのメディアを通じて情報発信している。朝日新聞が運営するWEBサイト「withnwes」でコラムを連載。書籍「ガチャポンのアイディアノート」(オークラ出版)






