防空能力がなければ揚陸艦も餌食
中国海軍は近年、おそらく台湾進攻時の上陸侵攻を考えてであろう、大型揚陸艦を建造している。大型揚陸艦は、一度に大量の兵員と上陸用戦車を運搬できるからである。
中国は大・中型揚陸艦について、具体的には次の56隻を保有している。
・2万5000~4万トンのドック型揚陸艦(1隻で兵員600~1600人、戦車20~35両輸送可)11隻
・4200~4800トンの戦車揚陸艦(兵員200~250人、戦車10~11両)25隻
・800~1500トンの中型揚陸艦(兵員250~500人、戦車2~9両)14隻
・560トンの大型エアクッション揚陸艇(兵員230人、戦車10両)6隻
これらの大型艦は一度に大量の兵員や戦車を輸送できる利点はあるが、大型であるがゆえに欠点もある。
有事に台湾海峡、バシー海峡、南西諸島の各海峡を通峡時には、海上で容易に発見され、対艦ミサイルの格好の標的になりやすいのだ。
揚陸艦の防空能力はほぼ皆無なので、駆逐艦等がそれらの艦の防空カバーを行う。
だが、前述のとおり、ロシア製またはロシアの技術を詰め込んだ防空ミサイルでは、攻撃を阻止できない。
図3 対艦ミサイルで攻撃される中国揚陸艦(イメージ)
台湾からみれば、わずか56隻の大中型揚陸艦を撃沈さえすれば、中国の上陸能力をほぼ壊滅状態にできる。
駆逐艦等にミサイルを撃ち落とせる防空能力が備わっていないと、台湾への上陸作戦はできないということである。
ウクライナ戦争が中国海軍力の脆弱性暴露
今まで述べてきたように、中国の防空ミサイルは、ウクライナ戦争でほとんど役に立っていないロシア製のミサイルと同じであり、そのロシアの防空兵器は、ウクライナに「壊滅」といえるほど破壊されている。
ということは、中国の防空能力は低レベルで、防空の機能を果たせない。もしも台湾有事になれば、中国の空母・駆逐艦等・揚陸艦は、米欧製の対艦ミサイルの攻撃を止められず、撃破されてしまうことになる。
中国の空母機動群は、平時には相手国にその威容を見せつけている。それは、相手国がミサイルをその艦に向けて発射しないと分かっているからできることである。
防空能力がない空母は、格好の標的である。高価な戦闘機などが一度に破壊され大損害を被ることになる。
ウクライナ戦争がなければ、ロシアの防空兵器の実力が分からなかった。ロシアが発表する性能だけであればかなりの脅威に見えていた。
だが、戦争では全く役に立たたなかったのである。ロシアが公表してきた性能にはかなりバイアスがかかっていたということだ。
ウクライナ戦争以前、米欧はその「性能」に脅威を感じ、中国もその「性能」に高いカネを支払った。
ウクライナ戦争をつぶさに見ている中国軍の幹部は今頃、都市や空母を守れない防空能力の欠陥に冷や汗をかき、焦りに焦っているのではないだろうか。
米国に対抗すべく中国は空母打撃群を拡充させているが、その防空能力はウクライナ戦争でネガティブなお墨付きを得てしまった。
ミサイル防衛能力が高い米国の空母打撃群とは、規模だけでなく防空能力でも彼我の差が極めて大きいということだ。




