シンガポールで開かれた暗号資産に関するイベントで講演するドナルド・トランプ・ジュニア氏(10月1日、写真:ロイター/アフロ)
(英エコノミスト誌 2025年11月22日号)
アクセスに対するリターンが米国で急上昇している。
近ごろは誰もがポピュリストだ。ドナルド・トランプ大統領は政界、学界、商業界のエリート層に怒りの矛先を向けてきた。その精神は金融市場をも魅了している。
暗号資産(仮想通貨)の支持者らは、この通貨があれば超過利潤狙いの仲介機関は不要になるし、予測市場があれば誰でも何にでも賭けられると言う。
テクノロジー企業の経営者たちは自分のファンでもある投資家に新聞を通じてメッセージを送ったりせず、ポッドキャストを使って直接語りかけている。
ウォール街の大物たちは「民主化」される市場について語っている。もっとも、これは誰もが金融リスクにさらされることを意味している。
究極のインサイダーは米国大統領
そうであるなら、地位が高くて権力や特別な情報にアクセスできる「インサイダー」であることのリターンは低下するはずだ。ところが、実際には急上昇している。
考えてみてほしい。
第1に、政策に対する権力ゆえに究極のインサイダーであるトランプ氏は、大統領の職にありながら主に暗号資産がらみの取引を通じて莫大な利益を得ている。
第2に、企業の最高経営責任者(CEO)は大統領に内々に接触できる機会を得ようと争っている。
第3に、予測市場の爆発的普及は、内部情報の価値がこれまでになく高まっていることを意味している。
大統領一族の事業から順に見ていこう。トランプ氏が大統領の地位を利用して利益を得ているとの懸念が1期目に浮上した時、人々の関心はトランプ・オーガニゼーションがフロリダや首都ワシントンで経営するホテルに集中していた。
今回は規模の大きな取引が海外に移っている。
トランプ・オーガニゼーションは11月17日、モルジブにホテルを建設すると発表した。サウジアラビアの不動産開発会社ダール・グローバルと共同で進めている少なくとも8件のプロジェクトの一つとなる。
トランプ氏の合弁事業は現地で特別待遇を受けることが多い。ベトナムでは今年5月、ホワイトハウスに課された関税の交渉の最中に、ファム・ミン・チン首相が首都ハノイ近郊の不動産開発事業の起工式に出席した。
今月にはセルビア議会が、北大西洋条約機構(NATO)に爆撃された歴史的建造物を解体・撤去する法案を可決した。跡地にトランプ・ホテルを建設するためだ。
大統領はいろいろなものに自分の名前を冠するのを認めている。制限はほとんどない。
ニューヨーク・マンハッタンにそびえるトランプ・タワーのロビーには、トランプ氏をテーマにしたカフェ、軽食堂、菓子店、ウイスキー・バーが並んでいる。
だが、トランプ氏はここからどれほどの利益を得ているのだろうか。
2期目に入る前に当たる2024年の財務開示文書によれば、ダールとの取引で2200万ドルのライセンス収入を得ている。
また衣料品、香水、その他の記念品からも2000万ドル超を手にしており、そのなかにはMAGA(米国を再び偉大にする)運動をテーマに作られた数種のギターの推奨料110万ドルが含まれていた。
トランプ氏が米国内に所有するゴルフ場とホテルからの売上高は約3億5000万ドルだが、利益がいくらであるかは不明だ。