高市政権の「日本成長戦略会議」

 さらに、高市政権は11月10日に開いた「日本成長戦略会議」で、AI、半導体、造船、防衛、核融合などの17の戦略分野への投資促進策を打ち出しました(図表2)。

【図表2:総合経済対策の17の戦略分野】

 ちなみに、高市総理はかつて自身の著書で企業がため込む現預金への課税を主張したり、2024年の自民党総裁選では膨大な内部留保の活用を促すコーポレートガバナンス・コードの改定を主張したり、企業の抱える巨額の現預金について「並々ならぬ」問題意識を見せてきました。

 経済学の世界では、労働者一人当たりの設備投資の金額(資本装備率、資本ストック÷労働量)が労働生産性や経済成長率と密接な関係があるとされています。また、設備や技術は時間の経過につれて劣化・陳腐化が避けられないため、企業が競争力を維持しつつ成長していくには、前向きな投資が不可欠とされています。

 さらに、最近の企業戦略についての実証分析では、人的資本への投資が自己資本利益率(ROE)や株価評価を高める傾向があることが報告されています。

 こうしてみると、高市政権による投資促進策に、金融庁や東証によるプレッシャーが加わることで、日本の「企業改革」は新たな段階へ突入することとなりそうです。

官民の積極投資と日本経済へのインパクト

 高市政権、金融庁、東証の連携により日本企業が現預金の有効活用と投資拡大の動きを強めていくと、日本経済にどれほどのインパクトをもたらすのでしょうか。

 一般に、政府の補助金や助成金による民間投資への誘発効果(レバレッジ効果)は2倍~3倍程度とされているので、高市政権が昨年度の補正予算における「日本経済・地方経済の成長」のための投資(約5.8兆円)と同規模の資金を17の戦略分野に投じるなら、年間11兆~17兆円もの民間投資を誘発する計算になります。

 そこで、やや保守的に見て、年間10兆円の民間設備投資の積み増しが行われた場合の、日本経済へのインパクトを試算してみましょう。

 法人企業統計などの数字を参考に、①企業の設備投資全体に占める製造業の割合を3割、非製造業を7割、②海外向け投資比率を製造業は2割、非製造業はゼロ、③資本財への投資比率を製造業で35%、非製造業で13%、そして、④資本財に占める輸入品の比率を35%と置いて計算すると、10兆円の設備投資のうち日本国内に落ちる金額は計約8.8兆円になります。

(製造業)総投資額10兆円×①製造業比率30%×②国内比率80%×③④輸入品調整88%=約2.1兆円

(非製造業)総投資額10兆円×①非製造業比率70%×②国内比率100%×③④輸入品調整 95%=約6.7兆円

輸入品調整は投資に占める③資本財比率と④資本財に占める輸入品割合の掛け算