居場所を失う50代社員
Iさんが長年勤めてきたMRは、転勤が多い職種である。Iさんは西日本を中心に、3~5年ごとに県をまたいだ転勤を経験してきた。
「最後に西日本のある県にいた時は、上司がちょっとしたことで怒鳴る人で。私よりも5歳くらい若い人でした」
Iさんの会社は年功序列が廃止され、30~40代の管理職が増えていた。Iさんたち50代の社員は居心地が悪くなっていたという。
「50代の人は上手く立ち回る人間もいれば、いじめられる人もいました。目標を100%達成していても、『あなたは○○が足りない』とか難癖を付けられ、やり玉にあげられるんです」
その昔、女性社員は30歳までに「寿退社」をしないと、社内に居場所がなくなるという風潮があった。今は50代の社員がプレッシャーをかけられる時代なのだろうか。
「かつては私も、管内で営業成績トップだったこともあるんです。でもIT化が進んでから、社内が妙にせかせかしてやりにくくなった。パワーポイントやエクセルでこれまでの実績を報告するとか、社内テストを受けるみたいなのが多くなりました。セカンドライフなんとかっていう早期退職制度も導入され、それを勧められる機会も増えて」
「セカンドステージ・キャリア」「タレント・マッチング」早期退職プロジェクトの名称はカタカナが多い。「セカンドステージ」「キャリア」と言われると、未来への展望が開けるような錯覚を起こすが、実際には「解雇」臭を消そうとしているように感じる。
「私の会社は組合も弱く、泣きつく先もなかった。結局、早期退職に応じました」
退職金は手取りで1000万円。会社の確定拠出年金も2000万円あり、これらを手にIさんは長年勤めた会社を去ったのである。