アンリ・ルソーの「砲兵たち」。筆者撮影、以下同じ
アンリ・ルソーとAI時代の類似点
AIが創作の領域に踏み込み、絵画も音楽も文章も、ボタン一つで生み出せるようになりました。
それは、かつて写真が写実主義を終わらせたときと同じ構造です。
技術的な能力が機械に委ねられる時代、人間に残された創造の意味は何でしょうか。
AIは、最適化と再現において人間を超えます。構図、色彩、光の処理、文体、リズム・・・。どんな分野でも平均点の高い完璧を作り出します。
しかし、そこには意図の曖昧さも、感情のにじみもありません。
だからこそ、AI以後の芸術と教育の課題は、上手く作ることから何を感じ、どう表現するかへの転換なのです。
アンリ・ルソーは、19世紀末にこの問いを先取りしていました。彼の絵は美術学校で学んだ画家たちから笑われ、批評家には理解されなかったのです。
遠近法も比例も無視した構図。
それでも、彼の絵は100年後にニューヨークのニューヨーク近代美術館(MoMA)で人々の心を打ち、現代アートのような新鮮さで評価されています。
ルソーは「上手に描く」ことを目的とせず、「自分の中の夢を描く」ことを目的としました。
それはまさに、AIが上手さを極めた今、人間が再び取り戻すべき創造の在り方です。芸術教育の目的が「正しい描き方」や「模範的な演奏」を教えることだった時代は終わりました。
これからは、ルソーのように自分だけの見方を育てる教育が求められます。
