6.極超音速滑空弾が登場

 最後に、極超音速滑空弾である。

(1)軍事パレードに極超音速滑空弾が初登場

 2023年7月の軍事パレードでは、車軸4つのTEL(移動式発射台)に搭載されたロシア製の「イスカンデルM」に酷似の「KN-23」が登場していた。

 2025年10月には、車軸5つのTELに搭載された極超音速滑空弾が初めて登場した。中国の「DF-17」中距離弾道ミサイルに搭載可能な極超音速滑空体に似ている。

写真4 極超音速滑空弾

(2)ウクライナ戦争で短距離の極超音速滑空弾が使われた形跡なし

 ウクライナ戦争では、ロシアがウクライナに撃ち込んだ短距離弾道ミサイルについて、ウクライナは当初「イスカンデルM弾道ミサイル」と呼称していた。

 最近では、イスカンデル「M/KN-23」としている。撃ち込まれる側としては、この違いを判断することができないらしい。

 つまり、ほぼ同じなのだ。

 ロシアは、ICBM(大陸間弾道弾)の弾頭部に極超音速滑空体「アバンガルド」を搭載して実験を行ったことがあるが、短距離ミサイルに極超音速滑空体を搭載して実験に成功したという情報はない。

 ウクライナも、これまで極超音速滑空弾の攻撃を受けたことを報告していない。このミサイルはまだ使用されていないのである。

(3)極超音速滑空弾の実験で、極超音速は出ていない

 北朝鮮は極超音速滑空弾の実験を行ったことがあるが、2021年に韓国軍が確認した情報では飛翔速度はマッハ3、2022年には最大速度マッハ10(推定値)であった。

 韓国軍は、実験のマッハ10程度では極超音速とは評価していない。

(4)極超音速滑空弾は偽物の可能性が高い

 北朝鮮は、極超音速滑空弾の実験にも成功していないし、ロシアも短距離の極超音速滑空弾を保有していない。また、ウクライナ戦争でも使用の報告はない。

 これらを合わせれば、北朝鮮がマッハ10ないし15以上と言われる極超音速領域のミサイルの開発・製造に至っているとは考えられない。

 今回のパレードでは、ロシアの大統領や首相を経験したドミトリー・メドベージェフ氏が、このミサイルを実際に見ている。

 もしもこのミサイルが本物であれば、ロシアはこのミサイルの提供を求めることは間違いなく、ウクライナ戦争で近々に使用されることになるかもしれない。

 しかし、その可能性はほとんどないだろう。